日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧IA類(CR)

撮影者:鈴木 創

種名

和名 オガサワラヒメミズナギドリ
学名 Puffinus bryani
英名 Bryan's Shearwater

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧IA類(CR)
世界(IUCN):深刻な危機(CR)

オガサワラヒメミズナギドリは、2011年に新種記載されたばかりの海鳥である。生態、分布、個体数など不明な点が多い。個体群規模は非常に小さい可能性が高く、世界でもっとも絶滅が危惧される海鳥の1種と考えられる。


法的保護


 現在世界で唯一の繁殖地となっている小笠原群島の島嶼は、国指定小笠原群島鳥獣保護区特別保護地区(鳥獣保護管理法)に指定されている。

個体数減少の原因

 現在わかっている唯一の繁殖島では、ネズミ類に捕食された骨が確認されており、ネズミ類が個体数減少の大きな原因と考えられる(現在、ネズミは駆除されている)。

本種の発見の歴史

 オガサワラヒメミズナギドリは、ミッドウェイ諸島で1963年に採集されていた標本に基づいて2011年に新種として発表された(Pyle et al. 2011)。この時点では、ミッドウェイでの記録は極少なく、すでに絶滅してしまっている可能性が指摘されていた。一方、小笠原諸島では、過去20年の間に小笠原自然文化研究所等の保護・回収により正体不明のミズナギドリ6個体が保存されていた。DNA分析の結果、この鳥がミッドウェイの種と同種であることがわかった。また、小笠原の最も新しい記録は2011年と新しく、小笠原に生き残っている可能性が高いと考えられた(Kawakami et al. 2012)。確実な記録はわずか数例で、非常に個体数が少ないと考えられることから、環境省や世界自然保護連合のレッドリストで、絶滅危惧IA類に指定されたが、分布も生態も個体数も全く分かっておらず、謎に包まれていた。その後、2015年冬、森林総合研究所・小笠原自然文化研究所の共同チームが小笠原群島で繁殖を確認した(森林総合研究所2015)。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 オガサワラミズナギドリの繁殖分布、個体数は不明である。本種発見の契機となったミッドウェイ諸島では、観察記録が非常に少ないことから迷行個体であった可能性が高く、一方で、小笠原諸島では、より多くの観察事例があることから、主な繁殖地は小笠原諸島である可能性が指摘されていたが、その後、小笠原群島における繁殖地の発見や、同群島における多数の鳥類遺骨の発見により、主要な繁殖分布地は小笠原諸島であることが確認された。比較的稀ながら現在も定期船「おがさわら丸」の航路上で、生体の観察事例がある。個体数は不明であるが、これまでの調査から50-249個体程度と推定されている。

生態

 ミズナギドリ属で最も小さいミズナギドリである。全身黒色と白色からなるツートンカラーで、体上面や下尾筒は黒色、体下面は白色である。頭部の白色が眼上部まで達し、嘴と後肢が青灰色である点が特徴となっている。全長27 - 30 cm。翼長17 - 18 cm。翼開長55 - 60 cm。翼がやや小さく、尾羽の比率は大きい。短い間隔の「羽ばたき飛行」が、洋上で観察されている。繁殖環境は、オガサワラススキからなる草地や低木林、ガレ地や岩の隙間など開けた環境で、繁殖時期は冬季と推定されているが、生態情報はまだまだ不足しており、今後の情報蓄積が待たれる。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

 現在唯一、繁殖が確認されている小笠原群島の島嶼では、2006年にアナドリやオーストンウミツバメなど繁殖する小型海鳥類へのクマネズミによる捕食被害が確認されている。捕食は、アナドリなどの繁殖鳥及び卵をほぼ喰い尽くすほど苛烈なもので、突如、同島の繁殖集団は消滅の危機に陥った(2009年に環境省によるネズミ駆除が実施された)。また、回収された海鳥の被食死体からオガサワラヒメミズナギドリの骨も発見されたことから、本種のネズミ捕食害も明らかになった。

 ミズナギドリ類は光に集まる習性を持つ種が多く、有人島の父島と母島では、主に繁殖のための飛来期及巣立ち時期に、集落地域に集中する人工照明への光誘引による不時着事例が発生する。繁殖規模がもっとも大きいオナガミズナギドリでは年間数十羽以上が保護され、繁殖規模が小さいセグロミズナギドリでは年間数羽程度となるなど、小笠原諸島内の繁殖規模等との大まかな相関が認められている。オガサワラヒメミズナギドリは約20年間で2羽の保護であり、他種に比べて極端に個体群規模が小さい可能性が示唆される。有人島の光誘引では、飛行接近時には光源、電線、建物等への衝突による負傷の危険がある。ミズナギドリ類は長い翼を持ち滑空を主とするため、内陸に不時着した場合には、自力で飛び去ることが難しい。このため、不時着後にはネコ(集落地域の外飼いネコ及びノネコ)による捕食、交通事故、再衝突等が大きな脅威になっている。

主な保護課題

 繁殖地の島嶼へのネズミ類の侵入防止が重要である。繁殖地の島嶼にネズミ類が侵入すると、小型海鳥類の繁殖集団に壊滅的な影響を及ぼすため、侵入を予防する徹底的な対策と監視が必要である。また、ネズミ類によって減少したと考えられる繁殖集団を回復するためには、オガサワラヒメミズナギドリの繁殖可能な環境を有している島嶼でのネズミ駆除の実施が不可欠である。多数の島でネズミ対策の実践が進む小笠原諸島では、根絶成功から駆除失敗まで、さまざまな実例、知見があるが、行政主体や事業実務者が個々に情報を有している状況である。まず、早急にこれらの知見の横断的な共有が必要である。

 海鳥だけでなく、ウミガメ、星空に対しても、光害に対する意識が高い父島、母島では、これまでも光拡散を防ぐ光源への置き換えや、限定的な公共照明のライトダウンなどの取り組みがあり成果をあげている。しかし、有人島における光誘引によるミズナギドリ類他の不時着は、完全に防ぐことは困難であり、オガサワラヒメミズナギドリのように非常に個体数が少ない種では、有人島への不時着による影響を可能な限り最小化する必要がある。特に、狩猟能力の高いネコは大きな脅威であり、かつ、獲物を引き込む習性により被害事例の多くは発見が困難である。このため、人工照明及び、電線や建物等の人工構造物が集中し、海鳥が不時着するリスクの高い集落地域では、ノネコの捕獲と、飼いネコの室内飼いを徹底する必要がある。

執筆者

鈴木 創(小笠原自然文化研究所)

参考文献・資料

IUCN 2019. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2019-3.
http://www.iucnredlist.org.
環境省レッドリスト2019.
http://www.env.go.jp/press/106383.html (確認日:2020-02-25)
Kawakami K, Eda M, Horikoshi K, Suzuki H, Chiba H, Hiraoka T (2012) Bryan’s shearwaters have survived on the Bonin Islands, northwestern Pacific. Condor 114: 507–512
Kawakami K, Eda M, Izumi, H, Horikoshi K, Suzuki H (2018)  Phylogenetic position of endangered Puffinus lherminieri bannermani. Ornithol Sci. 17: 11-18.
Pyle P, Welch AJ, Fleischer RC (2011) A new species of shearwater (Puffinus ) recorded from Midway Atoll, Northwestern Hawaiian Islands. Condor 113: 518–527
森林総合研究所. 2015. プレスリリース記事:ついに発見!オガサワラヒメミズナギドリの営巣地―謎の希少鳥類は、小笠原の国有林に生き残っていた―
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2015/20150324/index.html