日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧IA類(CR)

撮影者:有田茂生

種名

和名 チシマウガラス
学名 Phalacrocorax urile(Urile urile)
英名 Red-faced Cormorant

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧IA類(CR)
世界(IUCN):低懸念(LC)

法的保護

 繁殖地のユルリ島とモユルリ島は「海鳥類の集団繁殖地」として国の鳥類保護区(1982年)や北海道の天然記念物(1963年)に指定されている。

個体数減少の原因

 北海道東部沿岸海域はこの種の繁殖分布域の南西限界にあたり、もともとこの地域の繁殖集団は小さかった。個体数がさらに減少した原因は究明されていないが、この地域で個体数の増加したオオセグロカモメやハシブトガラスによる卵やひなへの捕食が影響したのではないかと指摘されている。

保護活動の歴史

 不定期ではあるが、数カ所の繁殖地で営巣つがい数が調査され、繁殖集団の減少が明らかになった。また、繁殖地周辺海域では、人が営巣中のつがいを撹乱しないように注意が払われてきた。しかし、繁殖集団を増加させる積極的な保護対策はとられてこなかった。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 かつて、北海道東端部の根室半島付け根部分に位置する落石岬やその東北の海上に浮ぶ小島のユルリ島とモユルリ島、そこから南西方向にある霧多布島の湯沸岬で繁殖していた。海岸や島の断崖にある岩棚で数組のつがいが寄り集まって営巣する。この地域の繁殖集団はもともと大きくはなく、1970年代には合計してつがい数が約150組だったが、1990年代には約15組に減少し、最近では数組が繁殖するに過ぎず、繁殖しない年もある。南千島では全域で普通に繁殖していたが、この地域でも個体数が減少しているようだ。


撮影者:有田茂生

 世界的には広く分布し、アラスカ湾のキーナイ半島からコディアク島、アラスカ半島、さらにアリューシャン列島、ベーリング海のプリビロフ島、コマンドル諸島、カムチャツカ半島、千島列島へと連なる島嶼・海溝系の沿岸海域に生息し、繁殖する。

 北海道東部沿岸はこの種の広大な繁殖分布域の最も周辺部(南西端)にあたるので、この地域の小繁殖集団は全体集団の影響を受けていると推測される。すなわち、全体的に繁殖が順調な時期には個体数が増加し、それにともなって繁殖分布域が拡大し、北海道東部の繁殖集団も増加するが、逆に不調になれば個体数が減少し、分布域が縮小する。その結果、分布周辺部の集団の個体数が大きく変動すると推測される。将来は、この繁殖集団は気候変動による海洋環境の大規模で長期的な変化(たとえば海洋熱波)の影響を受けざるをえないだろう。

生態

 寒冷な海域に生息する潜水性の海鳥で、全長は約76cmで、カワウやウミウよりわずかに小さい。成鳥は顔から額が赤く、繁殖期に頭の上と後の2カ所に冠状の羽毛が立つ。

 沿岸海域で潜水して主に底魚類を捕食する。大きな繁殖集団をつくることはなく、少数が寄り集まって営巣する。

 非繁殖期の生活はまだよくわかっていない。ごく近縁な種で、繁殖分布域のさらに広く、個体数の多いヒメウは、冬期に南西日本の沿岸海域まで南下するが、この種はそれとは対照的に長距離の渡りをすることは少なく、通常、南下しても本州北部の沿岸海域までで、たいていは繁殖地の周辺海域に留まって越冬すると推測されている。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

  1. 個体数の増えた大型カモメ類やハシブトガラスなどの天敵による卵やひなの捕食。
  2. 繁殖地周辺の沿岸海域で行われる底魚の刺し網漁業による混獲。
  3. 沿岸海域における底魚類などの食物資源量の減少。
  4. 原油流失事故による海洋の汚染。
  5. 気候変動によって引き起こされる海洋環境や海洋生態系の大規模な変化。

主な保護課題

  1. 繁殖集団の長期監視(モニタリング)調査。北海道東部の繁殖地で毎年、継続して繁殖つがい数や巣立ちひな数を調査し、繁殖の現状と個体数の変動を把握する。また、繁殖地の周辺海域で目視調査を行ない、海域での分布を明らかにする。
  2. 繁殖の成功・失敗に影響を及ぼす要因を解明する。とくに、大型カモメ類やカラス類、ワシ類などの天敵による卵やひなの捕食を監視カメラによって明らかにする。
  3. 海鳥類と漁業の共存を目指す海洋保護区の設定。営巣場所の周辺に海洋保護区域を設定し、チシマウガラスが安心して繁殖行動を行えるようにする。

編集執筆者

長谷川 博(東邦大学名誉教授)

協力者

有田 茂生(根室市観光協会・職員)

参考文献・資料

ネチャエフ,V.A.・藤巻裕蔵. 1994. 南千島鳥類目録(国後, 択捉, 色丹, 歯舞)126pp.北海道大学図書刊行会.
環境省. 2005. 第6回自然環境保全基礎調査・鳥類繁殖分布調査報告書(種別繁殖分布図)チシマウガラス https://www.biodic.go.jp/reports2/6th/6_bird_species/pdf/tisimaugarasu.pdf