日本の絶滅危惧海鳥類

情報不足(DD)

撮影者:福田佳弘

種名

和名 マダラウミスズメ
学名 Brachyramphus perdix
英名 Long-billed Murrelet

絶滅危険度

日本(環境省):情報不足(DD)
世界(IUCN):準絶滅危惧(NT)

法的保護

 繁殖している可能性のある知床半島は、国立公園に指定され(1964年)、世界自然遺産に登録されている(2005年)。知床半島での繁殖の可能性は低いと考えています。これまでの記録では、千歳川上流で幼鳥が藻琴山で抱卵中の親鳥が捕獲されています。これらの地域では伐採が進んでいて現在では繁殖に適した森林が存在しないと考えられる。

個体数減少の原因

 くわしいことは分かっていない。この種は、海鳥にもかかわらず、多くは海岸から遠く離れた内陸部の原生的な針葉樹林の樹上で営巣する(後述)。海岸から遠いとは限らない。したがって、1)過去に行われた開拓や開発による天然林の伐採によって営巣地が減少したり、失われたりしたにちがいない。また、2)この鳥は潜水して採食するので、沿岸海域での流し網や底刺し網などの漁業によって混獲されたと推測される。さらに、4)沿岸海域での頻繁な海上交通によって繁殖行動が撹乱された可能性があり、5)サハリン海域で行われている油田・天然ガス田などの開発に付随して生じる海洋汚染もこの鳥の生存と繁殖に影響を及ぼしたと思われる。

保護活動の歴史

日本では、約半世紀前まで北海道で繁殖していたと考えられるが、近年の確実な繁殖記録はなく、保護活動はとくに行われてはいない。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 かつて、北海道東部の網走湾から知床半島両岸沖で繁殖羽の成鳥や巣立ち後の幼鳥が確認され、また1910年代(13年か15年)の8月初旬に千歳川上流の河畔で採集された幼鳥の標本の存在が判明し、近隣のサハリンや南千島の国後島や択捉島で繁殖が確認されているので、約100年前まで北海道東部から胆振・石狩地方の内陸で営巣していたことは確実である。しかし現在まで、この地域で巣や卵、幼綿羽のひなは未確認である(1961年6月15日に藻琴山山麓の針広混交林で抱卵中の雌1羽が捕獲されたという報告は再検討されている)。

 21世紀になってからも網走沖や知床半島沖、苫小牧沖などの沿岸海域で繁殖期に求愛行動をするつがいや夏羽の個体が観察されている。ただ、幼鳥は観察されていない。

 世界的には、カムチャツカ半島やオホーツク海、サハリン、ロシア沿海州、南千島の沿岸海域に生息し、周辺の内陸部で繁殖する。個体数は減少傾向にあり、情報不足(DD)に指定されている。

生態

 寒冷な海域に生息する沿岸性の海鳥で、全長は約24.5cm。ウミスズメやカンムリウミスズメとほぼ同じ大きさだが、それらと較べてくちばしは細く長い。

 ロシアでの調査によると、この種は海鳥であるにもかかわらず、内陸部の老成した針葉樹林(カラマツ林)の樹上に営巣する。巣の材料を運び、それらを組み合わせて台座を造るのではなく、細枝が重なって絡み合った棚状の部分や苔むした大枝の根元の部分の上に浅い窪みを作って産卵する。集団で繁殖する他の多くの海鳥類と異なり、単独で営巣する。繁殖生態の詳しいことは分かっていないが、繁殖期は6〜8月で、一腹に1卵、おそらく雄雌が交替で約1カ月間にわたって抱卵する。ひなはイカナゴやその他の魚類の稚・幼魚を親鳥から与えられて育ち、かなり成長した段階で巣から飛び立って、一気に海に出ると考えられている。

 もっぱら海上で生活する非繁殖期には遊泳中に体の下面となる喉から胸、腹にかけて白いが(冬羽)、繁殖期には、他の多くの海鳥類と異なり、それらの部分に褐色のうろこ状の模様が生じる(夏羽)。おそらく、この夏羽は森林の樹上の巣で抱卵する親鳥のカムフラージュ効果を高めているのであろう。

 海底が砂地の比較的浅い沿岸海域で採食し、イカナゴなどの底魚類やその他の魚類の幼魚、マクロプランクトンを捕らえる。厳冬期にはオホーツク海の水面は流氷によって閉ざされるので、この種は北海道から東北・関東地方の沿岸海域に渡って越冬すると推測されるが、詳しいことは分かっていない。

(補足)
 北アメリカの太平洋沿岸海域に生息するごく近縁な別種 Brachyramphus marmoratus は、かつてなぞに包まれた神秘的な鳥だった。この海鳥の営巣場所が100年あまり間、見つからなかったからである。巣とひなが発見されたのは1970年代になってからで(1974年8月7日)、しかも偶然だった。カリフォルニアの鬱蒼とした針葉樹林で、樹高約70mのベイマツ(アメリカトガサワラ)の中段約45mの高さで枝払い作業をしている人が、苔むした水平に伸びる太い枝の上に、幼綿毛に覆われた1羽のひなを見つけた。それが初めて発見されたこの種の巣とひなだった。その後の調査で、樹木が育たない高緯度地方では地上で営巣することが判明した。また、繁殖生態や行動も明らかにされた。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

  1. 成熟した針葉樹林の伐採による営巣地の破壊や喪失。
  2. 繁殖地周辺の沿岸海域で行われる流し網・底刺し網漁業による混獲。
  3. 沿岸海域におけるイカナゴや動物プランクトンなどの食物資源量の減少。
  4. サハリンにおける油田・天然ガス田の開発によって起こる海洋の汚染。
  5. 気候変動による海洋熱波の発生や有毒プランクトンの大増殖が引き起こす海洋生態系の変化。

主な保護課題

  1. 生息状況の把握。北海道東部の沿岸海域で目視調査を行ない、海洋分布と個体数の現状を明らかにする。
  2. 繁殖地の探索。かつて北海道東部知床半島の沿岸海域で求愛行動をする個体が観察されたので、この地域で繁殖している可能性がある。1994年6月末から7月初めにかけて(繁殖期にあたる)、知床半島のオホーツク海側で日本ウミスズメ類研究会とPacific Seabird Groupの経験豊富な研究者が共同で陸上での調査を行なったが、繁殖は確認されなかった。もし、海上で夏羽の個体を確保して(たとえばドローンを活用して)、それに電波送信機を装着することができれば、電波発信地点を追跡・特定して、営巣場所を発見することができるだろう。

編集執筆者・協力者

長谷川 博(東邦大学名誉教授)

参考文献・資料

Binford, L. C., Elliot, B. G. & Singer, S, W. 1975. Discovery of a nest and the downy young of the Marbled Murrelet. Wilson Bulletin, 87:303-319.
福田佳弘. 2008. マダラウミスズメ. Bird Research News, 5(6) :2-3. http://www.bird-research.jp/1_newsletter/dl/BRNewsVol5No6.pdf
川崎康弘. 2018. 網走沖の海鳥:ウトウとマダラウミスズメについて. 北の海鳥, 6:16-19. 北海道海鳥保全研究会. http://docs.wixstatic.com/ugd/76f137_f8269ad9170341ffa0206fb9b831cf2d.pdf
南波興之. 2018. 勇払クルーズにおけるマダラウミスズメの観察記録. 北の海鳥, 7:6-12.  http://docs.wixstatic.com/ugd/76f137_26e564ec3c7147679646ef6f171bc69b.pdf
ネチャエフ,V. A.・藤巻裕蔵. 1994. 南千島鳥類目録(国後, 択捉, 色丹, 歯舞)126pp. 北海道大学図書刊行会.
日本ウミスズメ類研究会・Pacific Seabird Group. 1996. マダラウミスズメの繁殖 確認調査について. http://www2.gol.com/users/kojiono/Madara_Project2.html
Singer, S. W., Naslund, N. L., Singer, S. A. & Ralph, C. J. 1991. Discovery and observations of two nests of the Marbled Murrelet. Condor, 93:330-339.