日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧IB類(EN)

写真:長谷川 博

種名

和名 コオキノタユウ(コアホウドリ)
学名 Phoebastria immutabilis
英名 Laysan Albatross

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧IB類(EN)
世界(IUCN):準絶滅危惧種(NT)

法的保護

 コオキノタユウが繁殖している小笠原諸島の島嶼は「国指定小笠原群島鳥獣保護区(特別保護地区)」に含まれ、また、国立公園の特別保護地区に指定(1972年)され、世界自然遺産にも登録(2011年)されている。

個体数減少の原因

 1890年代まで、この種は、国内最東端にあたる小笠原諸島の南鳥島(マーカス島)で大集団をなして繁殖していたが、羽毛を目当てに大量に捕獲され、たちまち個体数が減少して、1900年ころ繁殖集団はほぼ消滅した。

 その後、1920年代に伊豆諸島鳥島で少数が繁殖を始め、1932年には北西側斜面の下部で約60羽の集団が見られた。オキノタユウ類の他の2種(オキノタユウ、クロアシオキノタユウ)とは異なり、この種は個体数が少なく珍しかったためか、当初は島の住民によって保護されていた。1933年に鳥島は禁猟区(10年間)に指定されたが、おそらく他の2種と同様に、1930年代の後半には密猟されたのだろう。そして、1939年の夏に鳥島の火山が大噴火を起こして大量の溶岩と火山灰を噴き出し、とくに営巣地に近接した島の北部一帯は溶岩流と火山灰によって覆われた。

 この種のおもな繁殖地である北西ハワイ諸島では、19世紀末から20世紀初頭に羽毛採取や採卵のために大量に捕獲され、個体数がいちじるしく減少した。その後、これらの島々は国立野生生物保護区となり、捕獲が禁止された。しかし、アジア太平洋戦争中には繁殖地に飛行場が造成され、激しい戦闘が行なわれ、一時的に繁殖活動が阻害された。戦後、個体数を減少させるそれらの要因がなくなり、1950年代から徐々に個体数が回復する過程にあったが、1990年代から個体数が減少し始めた。そのおもな原因は、1970年代末から急速に拡大した北太平洋での漁業、とくに公海での流し刺し網漁や外洋域でのマグロ類の浮き延縄漁、アラスカ海域でのタラ類など底魚を漁獲対象とした底延縄漁による混獲であると判明した。混獲による犠牲は、1980年代末には1年間に数万羽に上ると推定された。こうした混獲による死亡率の上昇は、確実に繁殖集団を減少させる。オキノタユウ類の世代時間は15〜20年と長いので、たとえ1年間の死亡率の上昇が小さく見えても、1世代当たりの死亡率は高くなる。その状況が続けば、数世代後に繁殖集団はかなり減少する。

 国際鳥類保護団体バードライフ・インターナショナルは、1998年の時点でこの種を絶滅の心配はない(LC)と判断したが、2003年の絶滅危険度評価ではランクを2段階上げて危急種(VU)とし、2008年にもそれを維持した。しかし21世紀になって、マグロ延縄漁による混獲を防止・軽減する手法(たとえば「鳥ライン」など)が確立し、それらが操業時に義務づけられて混獲が減少し、個体数が回復する傾向がみえたため、2014年には準絶滅危惧種(NT)となり、現在も維持されている。現在、北西ハワイ諸島全体でおよそ60万組のつがいが繁殖している。

 北西ハワイ諸島では、海上に浮遊するプラスチックの小片を成鳥が誤って大量に摂食(誤食)して消化管を詰まらせ、死亡する例が観察される。また、親鳥からプラスチック類が混入したえさを与えられたひなが死亡する例も報告されている。今後、プラスチック類による海洋汚染がさらに深刻化すれば、個体数減少の原因の一つになるだろう。

 また、抱卵中の成鳥が外来種のハツカネズミによって傷つけられる。もし、ハツカネズミの個体数が増えて、集団でひなや成鳥を襲うようになれば、個体数を減らす要因になる。

日本での保護活動の歴史

 1970年代後半に、小笠原諸島聟島列島の聟島の属島である聟島鳥島でごく少数が繁殖を開始した。ここにはクロアシオキノタユウの小さなコロニーがあったので、それに誘引されたと考えられている。

 かつて、聟島列島には食用を目的にしてヤギが持ち込まれ、それらが野生化したノヤギが大きな群れをなしていた。ノヤギが生息している島々(聟島、媒島、嫁島)では過剰な摂食によって植生が衰退し、土壌の浸食が進行していた。また、ノヤギの移動にともなう踏みつけによって、地上営巣性のオキノタユウ類や地中営巣性のミズナギドリ・ウミツバメ類は繁殖活動を妨害された。

 聟島列島では1997年から植生回復と自然再生のためにノヤギの排除が始められ、2001年に完了した。その結果、コオキノタユウはノヤギがいなくなった聟島本島に営巣分布域を拡大し、近年、個体数が少しずつ増加している。

 伊豆諸島鳥島では、1930年代に繁殖集団が消滅して以降、新たな移住は起こっていない。ただ、数年に1度、鳥島の北西側斜面の上空を単独で旋回飛行し、まれに地上に降りて歩き回り、オキノタユウに近づくことがある。おそらく、北西側斜面で集団繁殖しているオキノタユウとクロアシオキノタユウに誘引されるのだろう。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 1976年1月に、聟島鳥島で初めて7羽の飛来が観察された(繁殖の証拠は見つからなかった)。翌1977年6月には1羽の巣立ち直前のひなが観察され、1978年には3組のつがいが産卵し、3羽のひなが巣立った。はじめて繁殖が確認された1977年から1983年までの7年間、1年当たりの巣立ちひな数は0〜5羽で、平均すると1.7羽/年だった。1984年にはじめて巣立ちひな数が10羽を超え、その年から1990年まで7年間、巣立ちひな数は0〜14羽と大きく変動し、平均では9.6羽/年に増加した。つづく1991年から2000年までの10年間では、巣立ちひな数は7〜18羽で、変動幅はやや小さくなり、平均11.6羽/年に微増した。1994年以降には、聟島本島で繁殖が始まり、営巣分布域が拡大した。2001年から2010年まで10年間では、巣立ちひな数は9〜18羽となり、平均14.5羽/年に増加した。さらに2011年から2020年まで10年間では、巣立ちひな数は11〜18羽となり、平均13.8羽/年で、前の10年間よりわずかに減少した。なお、2013年には嫁島でも1羽の巣立ちひなが確認されたが、その後、嫁島では繁殖しなくなった。

 聟島列島のクロアシオキノタユウ集団は、1997年から2006年にノヤギが排除された後、営巣分布域を大幅に拡大し、1000羽にもおよぶひなを巣立たせるようになり、著しく成長した。それに対して、コオキノタユウ集団は、営巣分布を拡大しているものの、巣立ちひな数が20羽を超えたことはなく、小集団に留まっている。一般に、種の繁殖分布域の周縁部(小笠原諸島は西の限界)にある小集団は消滅するリスクが高い。

 なお、これら小笠原群島におけるオキノタユウ類の繁殖状況調査は、2003年まで小笠原支庁によって実施され、2004年以降はNPO法人小笠原自然文化研究所と共同で継続している。

生態

 体重は約2.4kg、翼開張は約2mに及ぶ大型の海鳥。ただし、北太平洋に生息するオキノタユウ類3種のうちでは最小である。北太平洋の大陸棚周縁部から外洋域を広範囲に移動して、イカ類や魚類、甲殻類を捕食し、浮遊している海洋動物の新鮮な死体も摂食する。

 北太平洋に生息するオキノタユウ類の中ではもっとも遅く繁殖を始め、小笠原諸島では、11月に営巣地に帰還し、12月半ばまでに1卵を産む。雌雄交代で約65日間にわたって抱卵し、翌年2月半ばにひなが誕生する。ひなは両親に保育され、7月に巣立つ。非繁殖期を北太平洋の中・高緯度海域で過ごす。

 聟島列島で実施された標識調査の結果(9年目の中間的な解析)、巣立ちから2、3年後に繁殖地に帰り、求愛行動を行なってつがいを形成する。繁殖開始は早くて5歳(産卵から5年後)で、平均8歳くらいだろう。毎年繁殖し、配偶システムは生涯一夫一妻で、死別するまでつがいの絆は維持される(死別後は再婚)。

 標識によって明らかにされた繁殖個体の年齢は5 歳から34歳で、10 歳から21 歳の頻度が一様に高かった。聟島列島集団の繁殖成功率は2003年が約71%、2013年(ひな中期までの参考値)は78%で、調査した年に限れば、北西ハワイ諸島集団と比較して同等かそれ以上であった。しかし、毎年の巣立ちひな数がかなり変動しているので、繁殖成功率も相応に変動していると思われる。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

  1. 漁業による混獲。この種の採食海域で、1980年代後半から流し刺し網漁や延縄漁による混獲が増え、死亡率が高まって、北西ハワイ諸島の繁殖集団の個体数が減少した。この混獲事故を防止・軽減するため、海鳥類が延縄に近づかないようにする「鳥ライン」が開発され、この手法やその他の混獲防止措置が操業現場で実行されて、混獲による犠牲が減少した。今後も、採食海域での混獲防止措置を継続し、漁業による事故死を最小限にとどめる必要がある。
  2. プラスチック類による海洋汚染。分解しにくいプラスチック類のごみは陸域から河川を通じて海洋に流れ込み、海面を浮遊しながら海流によって外洋域まで運ばれ、大規模な海洋汚染を引き起こした。多くの海鳥類はそれらの小片をえさとまちがえて摂食し、大量に取り込んだ場合には消化管を詰まらせて死亡することがある。また少量であっても、プラスチック類の表面に吸着された化学物質が胃の中で溶け出し、体内に吸収されて健康被害を引き起こすことが明らかになった。
  3. 気候変動。地球規模での気候変動は、海洋環境を変質させ、海洋生態系を大きく変え、海鳥類の個体数に影響を及ぼすにちがいない。北西ハワイ諸島では、この種は海岸に近い低い場所で営巣するので、気候変動の影響で海水準が上昇すれば、発達した熱帯低気圧の高波によって営巣適地が失われるだろう。
  4. 外来哺乳類。小笠原諸島では、クマネズミがオキノタユウ類の死体や放棄卵を摂食することがあるが、ひなや卵に対する捕食は確認されていない。ただ、クマネズミは潜在的捕食者で台風や旱魃によって食料不足になったときにはひなや卵を襲うおそれがある。なお、小笠原諸島では、ハツカネズミによる海鳥類への影響は未調査である。

主な保護課題

  1. 小笠原諸島聟島列島の繁殖集団を監視調査(モニタリング)する。毎年、繁殖つがい数と巣立ちひな数(現在調査中)を調査し、繁殖成功率の推移を把握する。また、滞在個体をカウントして個体数の動向を把握する。その上で、繁殖地での保護基本計画を立案する。
  2. 衛星追跡によって繁殖期・非繁殖期の採食海域を解明し、漁業による混獲を防止して海洋における保護を推進する。
  3. 巣立ち前のひなに標識足環を装着して(現在実施中)、識別された個体を長期にわたって追跡調査し、小笠原諸島集団の巣立ち後の死亡率、繁殖開始年齢、繁殖参加率など、生活史の基本的特性を明らかにする。同時に、他の繁殖集団から移入する個体を監視し、移入数を把握し、未標識個体には標識を装着する。そして、繁殖と死亡、移入と移出を解析し、聟島列島集団がなかなか成長しない原因を明らかにする。
  4. 聟島列島では外来ネズミ類の駆除が実施され、2021年時点で生き残り個体は発見されていない。しかし、侵入にそなえて水際対策を徹底する必要がある。

執筆者

長谷川博(東邦大学名誉教授)
鈴木 創(小笠原自然文化研究所)
堀越和夫(小笠原自然文化研究所)

参考文献・資料

Arata, J. A., Sievert, P. R. & Naughton, M. B. 2009. Status assessment of Laysan and Black-footed Albatrosses, North Pacific Ocean, 1923-2005. U. S. Geological Survey Scientific Investigations Report 2009-5131. 80pp.
川上和人. 2019. 小笠原諸島における撹乱の歴史と外来生物が鳥類に与える影響. 日本鳥学誌, 68: 237–262.
堀越和夫・鈴木 創・佐々木哲朗・千葉勇人. 2009. 外来哺乳類による海鳥類への被害状況. 地球環境, 14: 103–105.
堀越和夫・鈴木 創・千葉勇人. 2015. 聟島列島におけるコアホウドリの繁殖状況. 小笠原研究年報, 38: 51–64.
鈴木創・堀越和夫・佐々木哲朗・川上和人. 2019. 小笠原諸島聟島列島におけるノヤギ排除後の海鳥営巣数の急激な増加. 日本鳥学誌, 68: 273–287.