日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧IB類(EN)

撮影者:鈴木 創

種名

和名 アカオネッタイチョウ
学名 Phaethon rubricauda
英名 Red-tailed Tropicbird

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧IB類(EN)
世界(IUCN):LC

法的保護

 国内では、現在、北硫黄島、南硫黄島、南鳥島の3か所で繁殖する。このうち、北硫黄島、南硫黄島は世界自然遺産(過去に繁殖記録のある西之島含む)に、北硫黄島は小笠原国立公園(西之島含む)に、北硫黄島、南鳥島は、国指定鳥獣保護区(西之島も指定)に指定されている。さらに南硫黄島は、天然記念物と南硫黄島原生自然環境保全地域に指定され、厳重に保護されている。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 インド洋、太平洋の熱帯から亜熱帯にかけて分布、生息する。ネッタイチョウ科の中でも分布が広く、北緯40°~南緯40°にかけて、概して海水温が22℃を超える海域で見られる。外洋の島嶼で繁殖するが、一部オーストラリア南西部の海岸でも繁殖が確認されている。日本の亜種は Phaethon rubricauda rothschildi とされ、国内では、硫黄列島の北硫黄島、南硫黄島、南鳥島で繁殖し、最大の繁殖地は南硫黄島である。小笠原諸島の西之島では1981年に繁殖記録がある。小笠原群島、八重山諸島に渡来するほか、本州、四国、九州、奄美諸島などでも偶発的、あるいは不定期に観察されている。

 世界全体の個体数は成熟個体が70,000羽と推定されているが、やや減少傾向にある(BirdLife International 2023)。南硫黄島では1982年に53巣、200個体以上が、台風直撃後の2007年の調査では、23巣、100個体以上が、2016年には70巣、2017年には23巣、325個体が確認されている(塚本 1983, 川上ら 2007, 2018)。北硫黄島では2000年に18巣、2001年に7巣、2015年に6巣が確認され、未踏査域も含めて数十つがいが繁殖していると考えられている(川上ら 2021)。南鳥島では1980年代で3巣、2007年には4巣が記録されている(川上 2017)。

生態

 全長約96cm、翼開長約112cmの大きさで、雌雄同色の海鳥。頭部から喉、体の上面、下面、翼とも白色。嘴と長い尾羽が赤色。過眼線と初列風切の羽軸は黒色。

 空中から海に飛び込み、イカ類、トビウオ類、甲殻類などを捕食する。外洋の島で、崖や岩場、海岸近くの樹林地などにルースコロニーを作り、一夫一妻で繁殖する。コロニーでは、岩の下、木の根元などの地面に1卵を産む。抱卵日数は42~46日、その後、67~91日の育雛期間があり巣立つ(del Hoyo et al. 1992)。硫黄列島では、海岸低木の樹下(南硫黄島ではクサトベラ等、北硫黄島ではハウチワノキ等)や崩積地の岩陰等に産卵する。12月頃に島に戻り、1月頃から抱卵、3月~4月にはヒナや親鳥のヒナへの給餌が記録されており、6月中・下旬が、成長段階に差があるものの巣立ち直前の時期にあたる。育雛は8月頃まで続くと考えられている(川上ら 2007, 2018)。


アカオネッタイチョウ

撮影者:鈴木 創


アカオネッタイチョウ

撮影者:鈴木 創


個体数減少の要因


ネズミ類による卵やヒナ等の捕食、人による卵などの採取、繁殖地の撹乱が個体群に影響を及ぼし、太平洋ではエルニーニョ現象により個体群に負の影響があることが報告されている(Enticott & Tipling 1997)。

保護活動の歴史

・1972年、繁殖地の北硫黄島、過去に繁殖確認のある西之島が小笠原国立公園に指定。
・国内最大の繁殖地・南硫黄島は、1972年に天然記念物、1975年に南硫黄島原生自然環境保全地域に指定。
・2008年に西之島が、2009年に北硫黄島と南鳥島が国指定鳥獣保護区(集団繁殖地)に指定。
・2011年、世界自然遺産の「小笠原諸島」に、北硫黄島、南硫黄島、西之島が指定。
・2016年、海鳥を指標とした重要な海域であるマリーンIBA(Marine Important Bird and Biodiversity Areas)として、西之島がJP-M009、11火山列島(北硫黄島、南硫黄島)がJP-M011として選定。
・東京都、東京都立大学、森林総合研究所、小笠原自然研究所等により、海鳥の生息状況調査とモニタリングが継続的に行われている。

主な保護課題

  1. 南硫黄島は外洋にあり、かつ立入規制がされているため、人為的な攪乱はないと考えられる。
  2. 小笠原群島では、ネズミ類による海鳥類への深刻な捕食害が確認されているが、現在、南硫黄島では生息していない。しかし、時折船舶の漂着事故等が発生していることや、50km程度離れた硫黄島には、ネズミ類をはじめて多くの侵略的外来種が生息していることから、厳重な監視が重要である。
  3. 南硫黄島の個体群の主要な繁殖場は海岸部である。近年、小笠原諸島では、台風の接近が増加し、大型化する傾向があり、暴風時の高波や落石による影響が生じる可能性がある。また、西之島、硫黄島等の周辺火山の活動が活発で、噴火に伴う津波の発生も予測されている。大きな自然災害の発生後には、個体群の生息状況を確認ことが必要である。
  4. 北硫黄島では、クマネズミとドブネズミによる鳥類の捕食が報告されており、これらネズミ類を根絶することが望ましい。
  5. 国内の繁殖地は限定されている。いずれも外洋にあり、生息数、繁殖数、年変化等に関する情報は少ないため、継続的な情報の集積が必要である。

執筆者

山本 裕(公益財団法人 日本野鳥の会)
鈴木 創(小笠原自然文化研究所)

参考文献・資料

バードライフ・インターナショナル東京. 2016. マリーンIBA白書 海鳥から見た日本の重要海域. バードライフ・インターナショナル東京. 東京.
BirdLife International (2023) Species factsheet: Phaethon rubricauda. Downloaded
from http://www.birdlife.org on 8/2/2023.
del Hoyo J., Elliot A., Sorgatal J. 1992. Handbook of the birds of the world 1.
Lynx Edicion. Barcelona.
Enticott J. & Tipling J. 1997. Seabirds of the World: the complete reference. New Holland. Singapore.
Kawakami K, Horikoshi K, Suzuki H & Sasaki T (2010) Impacts of Predation by the Invasive Black Rat Rattus rattus on the Bulwer’s Petrel Bulweria bulwerii in the Bonin Islands, Japan. In: Kawakami K & Okochi I (eds) Restoring the oceanic island ecosystem: 51–56. Springer, Japan.
川上和人・鈴木創・千葉勇人・堀越和夫. 2007. 南硫黄島の鳥類相. 小笠原研究 33. 首都大学東京小笠原研究委員会. 111-127.
川上和人. 2017. 小笠原諸島南鳥島の鳥類相. Strix 33. 131-143.
川上和人・鈴木創・堀越和夫・川口大朗. 2018. 2017年における南硫黄島の鳥類相. 小笠原研究 44. 首都大学東京小笠原研究委員会. 217-250.
川上和人・鈴木創・堀越宙. 2021. 2019年における南硫黄島の鳥類相. 小笠原研究 47. 東京都立大学東京小笠原研究委員会. 185-200.
川上和人・鈴木創. 2021.硫黄島の鳥類相. 特別展示解説書「硫黄列島大百科」.神奈川県立生命の星・地球博物館. 77-78.
環境省編. 2014. レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生生物 2 鳥類-. ぎょうせい. 東京.
塚本洋三. 1983. 南硫黄島の鳥類. 環境庁自然保護局(編) 南硫黄島の自然. 249-285. 日本野生生物研究センター. 東京.