日本の絶滅危惧海鳥類

準絶滅危惧種(NT)

撮影者:鈴木 創

種名

和名 クロウミツバメ
学名 Oceanodroma matsudairae
英名 Matsudaira's Storm-petrel

絶滅危険度

日本(環境省):準絶滅危惧種(NT)
世界(IUCN):VU

法的保護

 この種に対する特別な保護は行なわれていないが、現在世界で唯一の繁殖地となっている南硫黄島は、島全域が南硫黄島原生自然環境保全地域に指定されており、全域が立入制限地区になっている(自然環境保全法)。

個体数減少の原因

 第二次世界大戦前に、小笠原諸島火山列島の北硫黄島において繁殖記録があるが(1930)、戦後この島では繁殖は見つかっていない。長くクロウミツバメの繁殖状況は不明であったが、2007年と2017年に南硫黄島で繁殖が確認され、現在は南硫黄島が唯一の繁殖地と考えられる。北硫黄島(2008)で繁殖が確認された海鳥は、カツオドリ、アカオネッタイチョウなどの大型海鳥のみであり、クロウミツバメを含め小型・中型の地中営巣性海鳥の繁殖は一切観察されなかった。北硫黄島と南硫黄島において、地中営巣性の海鳥生息に関わる生息要因の差異は、外来ネズミ類の侵入の有無である。現在も、クロウミツバメの大規模繁殖地が維持されている南硫黄島は、ネズミ類が未侵入の世界的にも珍しい島嶼であるが、北硫黄島では、人の居住時期に侵入したネズミ類が現在も生息している。北硫黄島のクロウミツバメや小型の海鳥の繁殖集団が消滅した理由としては、ネズミ類による捕食害の可能性が考えられる。

保護活動の歴史

 この種に対する特別な保護は行なわれていない。2007年、2017年の南硫黄島の調査、2008年の北硫黄島の調査等により、徐々に生息地の状況が明らかになってきている段階である。

繁殖分布と個体数の現状と動向

 クロウミツバメの繁殖分布は小笠原諸島に限られており、ネズミ類の未侵入な南硫黄島が、現在世界で唯一の繁殖地となっている。太平洋に広く生息すると考えられるが生息分布や生態にはまだ不明な点が多い。かつて繁殖地であった北硫黄島の繁殖地が消滅した理由はネズミ類による捕食と考えられており、現在もネズミ類が生息する北硫黄島の繁殖個体群が回復する可能性は低い。南硫黄島では、2007年調査で山頂の雲霧林で繁殖が確認されたが、2017年調査には中腹のコル付近でも繁殖が確認された。この間に分布が拡大したのか、2007年時の調査不足か不明であるが、繁殖つがい数は数万組程度と推定されている。現状のままであれば繁殖集団を維持するには十分だと考えられる。しかし、同島の面積が3.54㎢と非常に小さいことや、急峻で海食崖が発達し、営巣可能な土壌が発達する植生帯は限られることから、長期的にみて南硫黄島繁殖地は不安定な状況にあると判断される。クロウミツバメが生存するための不可欠な要因としては、北硫黄島と南硫黄島の繁殖個体群が共に存在することが重要であった可能性が考えられる。このため、現存する唯一の繁殖地である南硫黄島にで、自然災害や気候変動による繁殖地の環境変化や、外来種の侵入、感染症が生じた場合には、種の存続に関わる深刻な事態となる可能性が否めない。


世界で唯一の繁殖地は南硫黄島の雲霧の中にある

生態

 全身黒褐色の小型の海鳥で、両翼を広げた長さは56cmである。体型体色はオーストンウミツバメと良く似るが、飛翔時に初列風切りの羽軸の白が目立つ。外洋域で水面に浮遊する動物プランクトンを捕食するとされている。硫黄列島海域では、航行中の船舶の後方を追尾して飛行することが多い。

 小笠原諸島の南硫黄島では、中腹から山頂部の土壌の発達した環境で集団繁殖を行う。6月末の調査では、完全に日が暮れた後、19時頃から集団繁殖地へ帰巣した。3時前から飛び立ちがはじまり、3時半には完全に島から飛び去った。戦前の北硫黄島の記録では、1月中旬に来島し、3月下旬から4月上旬に産卵し、6月上中旬に巣立つとされている。2007年及び2017年の南硫黄島の調査では、6月末に卵から巣立ち直前の個体まで様々段階の個体が確認されている。巣立ち後の死亡率や繁殖開始年齢など、生活史生態はまだ明らかにされていない。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

 硫黄列島で在来の捕食者と考えられていたシマハヤブサはすでに絶滅しており、現在は外来生物であるネズミ類以外の捕食者は見当たらない。

 現在、戦前の繁殖記録地である北硫黄島では、クロウミツバメを含む小型・中型の海鳥類の繁殖集団が消滅しており、要因は人の入植とともに侵入したネズミ類による捕食である可能性が高い。父島列島の東島等では、クロウミツバメと同サイズで、同様に地中営巣性のオーストンウミツバメや、アナドリが深刻な捕食害を受けており、クロウミツバメなどの小型海鳥類にとって、ネズミ類の生息する島での繁殖地の維持は困難と考えられる。また、南硫黄島のクロウミツバメ繁殖地の林床は、巣穴の掘り返しや踏圧で常に攪乱されて表土が露呈しており(攪乱に耐えうる大型草本のオオタニワタリ等が生育する)、地中営巣性の海鳥が利用しやすい林床環境が維持されている。一方で、小型海鳥類の消滅により、営巣に伴う土壌攪乱が失われた北硫黄島では、植生遷移の進行によりタマシダ類等が密生して地表を覆い、土壌も硬化している。このように、ネズミ類の侵入影響は、直接の捕食害にとどまらず、地中営巣性海鳥の営巣に適さない環境変化も引き起こしている。

 唯一の繁殖地である南硫黄島から約300km北に位置する小笠原群島の父島や母島では、年に数回程度、クロウミツバメが保護されている。近年、クロウミツバメを含む小型海鳥類の保護個体の眼球からヒルの寄生が確認されており、寄生群により視界を奪われた個体も確認されているが、個体群や繁殖地への影響は不明である。また、父島や母島で保護されるウミツバメ類やミズナギドリ類の多くは、有人島の灯りに誘引され、陸上に迷い込み失速又は衝突した不時着個体であり、巣立ち後の若鳥が多い。本来、無人島への不時着は生存への脅威にならないが、有人島では不時着後のネコ(ノネコ・外飼いネコ)による捕食や、交通事故、二次的な人工構造物への衝突事故など、人為環境下での連鎖が個体生存の脅威となっている。通常、不時着事故は数個体程度事故であるが、巣立ち期に、新月、濃霧が重なると、有人島における大規模な光誘引の不時着事故が発生する可能性がある。このため、日常的に状況を見極めた監視が必要である。

 なお、現在の唯一の繁殖地となっている南硫黄島のすぐ北にある硫黄島では、ネコ、ネズミ等が生息しているため、クロウミツバメの不時着時には大きな脅威になっている可能性があるが実態は不明である。

主な保護課題

 唯一の繁殖地となっている南硫黄島は、非常に小さく急峻な山岳島で、クロウミツバメが利用する植生環境は、常に大きな自然攪乱を受ける可能性がある。このため、過去に主要な繁殖地であった北硫黄島でネズミ対策を行い、同島の繁殖個体群を回復させることが、種の絶滅のリスク分散上を必要な保護課題になっている。大きな課題であるが、クロウミツバメと同じく、北硫黄島の繁殖個体群の回復が、種の存続に直結する固有生物は多く、小笠原の固有生態系の保全上避けられない重要課題となっている。なお、南硫黄島(原生自然環境保全地域)の生物相の監視は、最短でも10年に1度程度の上陸調査が実施されるのみとなっており、クロウミツバメの繁殖状況把握には頻度が不足している。今後は、無人調査による短期スパンの実態調査の実現が課題である。

執筆者

鈴木 創(小笠原自然文化研究所)

参考文献・資料

川上和人・鈴木 創・千葉勇人・堀越和夫 2008. 南硫黄島の鳥類相.小笠原研究 44: 217–250.
川上和人・鈴木 創・堀越和夫・川口大朗 2018. 2017年における南硫黄島の鳥類相.小笠原研究 33: 111–127.
Kawakami K, Eda M, Izumi H, Horikoshi K, Suzuki H (2018) Phylogenetic position of endangered Puffinus lheminieri bannermani.Ornithological Science l7: ll-18.
堀越和夫・鈴木 創・佐々木哲朗・千葉勇人. 2009. 外来哺乳類による海鳥類への被害状況. 地球環境 Vol. 14. No.1.103-105.
籾山徳太郎. 1930. 小笠原諸島並びに硫黄列島産の鳥類について日本生物地理学会会報 1, 89-186.
Hayato Chiba, Kazuto Kawakami, Hajime Suzuki and Kazuo Horikoshi. 2007. The Distribution of Seabirds in the Bonin Islands, Southern Japan. J. Yamashina Inst. Ornithol. 39: 1-17
Nakano, T., Suzuki, H., Suzuki, N., Kimura, Y., Sato, T., Kamigaichi, H., Tomita, N. & Yamasaki, T. 2020. Host-parasite relationships between seabirds and the haemadipsid leech Chtonobdella palmyrae (Annelida: Clitellata) inhabiting oceanic islands in the Pacific Ocean. Parasitology, 147(14): 1765–1773.