日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧II類(VU)

写真:長谷川 博

種名

和名 オキノタユウ(アホウドリ)
学名 Phoebastria albatrus
英名 Short-tailed Albatross

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧II類(VU)
世界(IUCN):危急種(VU)

法的保護


「文化財保護法」によって、1958年に天然記念物、1962年に特別天然記念物に指定され、1965年には繁殖地である伊豆諸島鳥島が天然保護区域として天然記念物に指定された。また、1993年に「絶滅のおそれのある野生動植物種の保存に関する法律」(種の保存法)によって国内希少動植物種に指定された。


個体数減少の原因


 1880年代末から羽毛を採るために伊豆諸島鳥島や小笠原諸島の聟島列島・西之島、沖縄の尖閣諸島で大規模に捕獲され(毎年十数万羽、合計数百万羽以上)、個体数が急激に減少し(1947年に狩猟鳥獣から指定解除)、1949年に絶滅したと発表された。

 1939年に鳥島で火山の大噴火が起こり、頂上部の営巣地に多量の火山灰が降下して堆積した。この火山噴火は、生存していたごく少数の個体の繁殖活動に影響を及ぼしたにちがいない。しかし、噴火によって全島民が撤退し、鳥島は無人になり、捕獲が完全になくなった結果、鳥島集団が守られたということもできるだろう。鳥島は1933年に禁猟区に指定されたが、監視の目が行き届かない離島で、おそらく禁猟は徹底されなかったにちがいない。


保護活動の歴史


 1951年に、伊豆諸島鳥島で少数の生存と営巣が再発見され、それ以来、積極的に保護されて個体数が回復してきた。鳥島では、再発見直後から、鳥島気象観測所(1947年開設の鳥島測候所が1952年に改称)の職員によって繁殖状況の監視調査と営巣地の保全、ひなの捕食者となりえる野生化したネコの駆除が行なわれた。しかし、気象観測所が1965年に閉鎖されて鳥島は無人になり、調査・保護活動はとだえた。

 8年後の1973年に、イギリス人鳥類学者が鳥島に上陸して調査し、それがきっかけとなって1976年に繁殖状況の調査が再開された。そして、1980年代から急傾斜の斜面にある営巣地で、低下していた繁殖成功率(生まれた卵のうち巣立つ割合)を改善するために、衰退した植生を回復し、島の上部から流れ下って営巣地に流入する火山灰の泥流を防止する営巣地の保全管理工事が断続的に実施された。また1992年から、島の北西側に位置する泥流のおそれのない広くてなだらかな斜面にデコイを並べ、そこから録音した音声を再生して流し、繁殖年齢前の若い個体を誘引して新しい営巣地を形成する保護計画が進められ、2004年に成功した。こうした保護計画が実を結び、鳥島集団は着実に成長してきた(図1)。



図1.伊豆諸島鳥島におけるオキノタユウ集団の成長(まとめ:長谷川博)


 さらに、2008年から12年まで、鳥島で生まれたひなを小笠原諸島聟島列島に再導入して、繁殖地を再生する大規模な保護事業が実施され、2014年に聟島から最初のひなが巣立ち、その後もひなが巣立っている。

 沖縄の尖閣諸島では、1910年ころを最後に鳥の姿は観察されなくなったが、1971年に南小島と北小島で合計14羽が確認され、再発見された。そして、1988年に南小島でひなが確認され、2002年には南小島と北小島で合計33羽のひなと81羽の成鳥・若鳥が観察され、個体数の増加が確認された。その後、日本政府が尖閣諸島への立ち入りを禁止したため、繁殖状況の調査は困難になった。


繁殖分布と個体数の現状と動向


 伊豆諸島鳥島では、2018年に島内の3カ所に営巣があり、繁殖つがい数が合計で1000組を超え、鳥島集団の総個体数も推定で5000羽を超えた。この繁殖集団は指数関数的に増加していて(図2)、その増加率は毎年約8%で(1979年から40年間の平均)、とくに最近(2005〜18年)では鳥島集団の繁殖成功率が改善された結果、毎年約9%になり、計算上では約8年で倍加する。したがって、もし鳥島火山の噴火や海洋環境の大きな変化がなければ、2026年ころに繁殖つがい数が約2000組、総個体数が約10000羽になると予測される。



図2. 伊豆諸島鳥島におけるオキノタユウ集団の指数関数的成長

 小笠原諸島聟島列島では、最近、2組のつがいが繁殖し、毎年つづけてひなが巣立ち、ここから巣立った若い鳥が成長して営巣地に帰ってきている。したがって、現在、繁殖集団を確立するごく初期の段階にあるとみなされる。

 尖閣諸島では最近の繁殖状況の調査が行なわれていないので、くわしいことはわかっていない。しかし、ここでは人間による影響をほとんど受けずに繁殖しているはずなので、過去の個体数資料にもとづいて推測すると、2019年の繁殖つがい数は200〜250組、総個体数はおよそ1000羽となる。

 これらの他に、北西ハワイ諸島のミッドウェー環礁で、鳥島から巣立った個体がつがいとなって、2010年に初めて繁殖し、ひなが巣立った。しかし、4年後につがいの片方が死亡し、繁殖がとだえた。2018年から、やはり鳥島から巣立った別の2個体が新しいつがいを形成して繁殖を始め、2年つづけてひなが巣立った。


繁殖集団間の遺伝学的関係


 鳥島集団のひなの集団遺伝学的解析(ミトコンドリアDNAによる)の結果、遺伝学的型は2つのグループに分かれることが判明した。そのうちの大きなグループは遺伝的な変異を保存していて、もう一方のグループは尖閣諸島で採集された死体標本から得られた型にごく近縁であった。このことから、鳥島集団は個体数が激減したときにも、おそらく数十羽あまり(おおまかに2桁)の個体が生き残って、繁殖地を離れて広大な海洋で生活し、その後、少しずつ鳥島に帰ってきて繁殖を始めたと推測される。したがって、個体数が著しく減少して近親交配が繰り返され、生存力が低下するボトルネック効果の心配はなくなった。また、尖閣諸島集団でも生き残った少数の個体が、人間が近づけない場所に避難して繁殖し、存続してきたと考えられ、その一部が後に鳥島で繁殖するようになったと推測される。

 もともとの鳥島集団と尖閣諸島集団とは遺伝学的に異なっていて、体の大きさや繁殖期にいくらか違いがある。近年、鳥島や聟島列島では尖閣諸島由来の個体が観察されているが、もともとの鳥島集団と尖閣諸島集団にそれぞれ由来する個体の間で生まれた子孫が生殖能力をもつか否かは未解明である。


生態


 大型の海鳥で、体重は5〜6kg、両翼を広げた長さは2.3mに及ぶ。おもに大陸棚周縁部から外洋域を広範囲に移動して、ときに沿岸域をも訪れ、イカ類や魚類、甲殻類を捕食する。また、海洋動物の浮遊死体をも摂食する。10月上旬に繁殖地の島にもどり、10月下旬から11月にただ1個の卵を産み、雌雄交代で64〜65日間卵を抱き、12月末から1月にひなが誕生する。ひなは両親に保育され、5月に巣立つ。巣立ち後、オホーツク海からアリューシャン列島近海、ベーリング海、アラスカ湾、北アメリカ西海岸の沖に渡って非繁殖期を過ごす。

 巣立ちから2、3年後に繁殖地に帰り、つがい形成を始める。繁殖開始は早くて5歳(産卵から5年後)、平均して約7歳からで、毎年繁殖し、配偶システムは生涯一夫一妻で、死別するまでつがい関係は維持される(死別後に再婚する)。伊豆諸島鳥島での繁殖成功率は平均して約67%で(最近の20年間)、巣立ち後の生残率は毎年約95.5%で、最大寿命は60〜70年と推測される。


個体数に影響を及ぼすおそれのある要因


  1. 漁業による混獲。非繁殖期を過ごすベーリング海やアラスカ海域で、1990年代半ばから、タラ類やオヒョウなどの底魚を漁獲対象とする底延縄漁による混獲が増えた。この事故死を防止するために、海鳥類が延縄に近づかないようにするための「鳥ライン」が開発され、それが漁業に現場で実行に移されて、混獲による犠牲が減少した。今後も、国際協力によって採食海域での混獲防止に取り組む必要がある。
  2. 火山噴火。伊豆諸島鳥島は日本列島でもっとも活発な火山の一つで、1902年と1939年に、島の景観を変えるほどの大噴火を引き起こした。もし、それと同じ規模の火山噴火が起これば、営巣地は大きな影響を受け、火山活動が終息するまで繁殖活動は中断される。しかし、個体数が増えた現在、火山噴火の個体数への影響は一時的で、これまでの頻度で火山噴火が起こっても、それによって絶滅に至ることはないと推論されている。
  3. 国際紛争。沖縄県の尖閣諸島に対して、中国と台湾は領有権を主張している。もし、領土をめぐって国際紛争が勃発すれば、南小島と北小島の営巣地にも必ず影響が及ぶ。それを避けるために、政府間の対話による平和的解決が望まれる。
  4. その他、プラスチック類による海洋汚染の拡大や気候変動による海洋環境の変質、海洋生態系の変化も将来、個体数に影響を及ぼすにちがいない。それらの現れ方を注意深く見守らなければならない。

主な保護課題


  1. 鳥島集団の繁殖状況を継続して監視調査し(現在実施中)、予測どおりに個体数が増加しているかどうかを検証する。
  2. 約20年間にわたって空白となっている尖閣諸島集団の繁殖状況を調査する。現在、高解像度の衛星画像を利用した繁殖状況の調査が計画されている。ただ、樹木や草、岩の陰にいる個体を確認することは困難で、黒褐色をした若鳥やひなは目立たず、確認しにくい(過小評価要因)。また、体の大きさと色が似通っているアオツラカツオドリとの区別も課題となる(過大評価のおそれ)。最終的には現地調査が必要で、ドローンを利用して空中から撮影した高解像度の映像を分析すれば、つがい数やひな数をかなり正確に把握できるだろう。
  3. 小笠原諸島聟島列島における営巣地とその周辺区域を保全し、繁殖状況の監視調査を継続し(現在実施中)、小笠原諸島集団の確立を促進する。
  4. 国際協力によって漁業による混獲を防止し(現在実施中)、海洋における保護を推進する。
  5. 鳥島集団と尖閣諸島集団の遺伝学的関係をゲノムDNAから解析する。

執筆者


長谷川博(東邦大学名誉教授)

参考文献・資料

長谷川博. 2003.『50羽から5000羽へ:アホウドリの完全復活をめざして』224pp. どうぶつ社.
長谷川博. 2020.『アホウドリからオキノタユウヘ』176pp. 新日本出版社.