日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧II類(VU)

抱卵中のズグロカモメ
(中国遼寧省双台河口国家級自然保護区の塩性湿地にて、1997年6月21日、岡部海都氏撮影)

種名

和名 ズグロカモメ
学名 Larus saundersi
英名 Saunders's Gull

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧II類(VU)
世界(IUCN):危急種(VU)

法的保護

特になし(日本)

個体数変動の原因

 中国の繁殖地の河口域においては、1980年代後半からの干拓事業の進行によって、本種の繁殖環境である自然条件下の塩性湿地が急速に失われて行った。その過程において、繁殖は干拓堤防の内部に取り込まれた塩性湿地で行われることとなり、河川の増水や高潮による巣の水没の危険を免れたものと推測され、総個体数は増加傾向で推移してきた。しかし現在、主要な繁殖コロニーは、限られた面積のエビ養殖場での水位管理に依存して維持されている状況にあり、今後の保全策の対応が注目される。

 日本の越冬地の干潟では、干拓による諫早湾干潟の喪失によって、好適な越冬環境の面積が減少したものの、大陸からの渡来数は漸増してきたようである。

分布

 本種は、アジア大陸東部の大河川の河口域に形成・維持される広大な泥質干潟と塩性湿地からなる環境に特殊化したカモメ類である。中国の渤海沿岸・黄海沿岸、韓国西部沿岸で繁殖し、冬季には中国の江蘇省から海南島までの沿岸、台湾西部沿岸、ベトナム北部沿岸、韓国西部・南部沿岸、日本南部沿岸で越冬する。ロシア、北朝鮮でも記録がある。

個体数の動向、保護活動の歴史

1.中国等の繁殖地

 本種は中国福建省廈門(アモイ)での採集個体をもとに1871年に分類記載されたが、それ以降110年以上の間、繁殖地は不明のままで、中国北部からモンゴルにかけての内陸の湖岸で繁殖すると信じられていた。しかし、1984年に中国江蘇省沿岸部の塩城自然保護区で初めて繁殖コロニーが発見され、1989年には遼寧省盤錦市の双台子河の河口域にある双台河口自然保護区でも発見された。なお、1987年に中国の内蒙古自治区の呼倫湖(ホロンノール)で繁殖コロニーが発見されたとの情報があったが、それはゴビズキンカモメ Larus relictus の誤りであった。

 1993年時点で、この2地域の繁殖コロニーでの成鳥総数は塩城保護区1,366羽(1993年)と双台河口保護区1,000〜1,200羽(1991年)の合計2,366〜2,566羽であった。当時、本種の成鳥総数は2,000羽(1993年)とも3,000羽(1994年)とも表現された。

 その後、他の繁殖コロニーの発見もあり、1996年時点での繁殖コロニー成鳥数の情報では、遼寧省双台河口自然保護区2,150羽(1996年)、遼寧省大凌河河口100羽(1996年)、河北省灤河河口49羽(1992年)、山東省黄河河口787羽(1993年)、江蘇省塩城自然保護区1,480羽(1992年)の合計4,566羽であった。このことから、1996年時点での本種の成鳥総数は5,000羽程度と考えられた。

 さらに2003年時点での繁殖コロニー成鳥数の情報では、遼寧省双台河口自然保護区2,485〜3,211羽(2000〜2003年)、遼寧省大凌河河口226羽(2001年)、遼寧省丹東鴨緑江口湿地自然保護区165〜209羽(2001〜2002年)、河北省灤河河口50羽(1997年)、山東省黄河三角州自然保護区1,299羽(1998年)、江蘇省塩城自然保護区2,022〜2,610羽(2000〜2002年)、韓国京畿道仁川広域市500羽(2003年)の合計6,747〜8,105羽であった。このことから、2003年時点での本種の成鳥総数は7,000〜8,000羽程度と考えられた。

 なお、2008年時点で、直近の年の越冬地での生息数(幼鳥も含まれると思われる)の集計からは、中国東部・南部沿岸9,625羽、香港35羽、台湾700羽、韓国西部・南部沿岸2,000羽、日本2,000羽、ベトナム10羽などから、全体で14,400羽とされる。

2.中国遼寧省の双台河口自然保護区の事例

 このように本種の繁殖地発見以降、繁殖コロニーで数えられた成鳥総数は、繁殖地の追加もあって、一貫して増加し続けてきた。その増加の要因については、本種の世界最大の繁殖地となっている遼寧双台河口国家級自然保護区(約800km2。北緯40度52分00秒、東経121度47分30秒。その後範囲が拡大され現在、遼寧遼河口国家級自然保護区)での動向が参考になる(写真)。

 同自然保護区では、農地造成のための干拓、農業用貯水池造成、水田等耕作地での営農、エビ養殖場造成のための干拓、エビ養殖生産、ヨシ原でのパルプ原料用ヨシの生産・刈取り、点在する油井からの石油採取及び石油掘削活動などの産業活動が行われてきた。

 1996年から2008年までの13年間に同保護区の繁殖コロニーでの成鳥数のカウント(日中共同調査時に筆者担当)が毎年6月後半に実施されてきた(コロニーから離れた干潟・海上にも成鳥は存在するが数えられていないことに注意)。それらは、始めの5年間では2,150羽(1996年)から2,485羽(2000年)であったものが、終わりの5年間では4,250羽(2004年)から6,765羽(2008年)へと増加した。この間、双台子河の河口域の東岸の干拓地では、繁殖地として利用されていた造成途中の貯水池内の塩生植生帯が1999年に貯水により利用できなくなり、以後東岸側での繁殖はほぼ見られなくなった。また西岸の干拓地では、エビ養殖場の更なる拡大により塩性湿地が失われていき、2003年には保護区南西端にあるエビ養殖場敷地内にほとんどの個体が集中して繁殖するようになり、一部の巣は水につかるような状態となった。これに対して、双台河口自然保護区管理局ではエビ養殖業者と交渉して、2004年から本種の巣・卵・ヒナが水没しないよう、該当するエビ養殖場への海水の流入時期を遅らせるようにした。その結果、限られた範囲ではあるが、本種の繁殖がエビ養殖場敷地内で継続できることとなった。

 本種は本来、大河の河口域で、前面に泥質干潟が広がり、ホソバマツナ(Suaeda heteroptera)、マツナ(Suaeda glauca)などの草丈の低い塩生植物が生える大潮最高高潮線付近の地上に営巣する。通常、巣は満潮時に海水につかることはないが、河川流量の急増時や高潮時などには水没することがあるものと考えられる。また、離島ではなく大陸の地上に営巣する特性から、捕食者に対する適応として巣間距離が大きく、低密度のコロニーを形成する。双台子河河口域では、干拓地造成によって自然条件下の塩性湿地が急速に失われていく中、造成途中の干拓地では、堤防の内部に取り込まれた塩性湿地で繁殖が行われることとなり、突発的な水位増加による巣の水没の危険から免れることになったものと思われ、そのことが本種の繁殖個体数の増加に寄与したのではないかと推測される。しかし、干拓事業の進展に伴って、干拓地内の繁殖場所も減少していき、保護区南西端のエビ養殖場に繁殖場所が限定されるようになった。そのため営巣密度は極端に増加し、2007年及び2008年には頭部の羽毛を欠く弱々しいヒナが散見され、高密度繁殖による影響が疑われた。とは言え、総体としては、自然環境下の塩性湿地がほぼ失なわれた中にあっても、人為環境下での繁殖継続により個体数の増加が保障されてきたものと考えられる。双台河口自然保護区を管理する盤錦市政府は、同地のズグロカモメ繁殖地としての重要性の認識を深め、本種の繁殖地の保全に努めていて、2004年12月には同地はラムサール条約湿地に登録された。

3.日本の越冬地

 一方、日本においては、本種は1970年代までは過去に10数例しか記録がない「迷鳥」又は「稀な冬鳥」とみなされていた。1980年代になると「九州地方では比較的多いが他の地域では稀な冬鳥」とされ、1ケ所で観察される個体数は1989年までは4〜38羽程度であった。しかし1990年以後には、多くの個体が九州の干潟域で越冬するようになった。なお、双台河口自然保護区で1991年6月に標識放鳥されたヒナ1羽が、1992年1月に愛媛県西条市加茂川河口で幼鳥として確認され、日本の越冬個体群の一部は双台子河河口の繁殖地から渡来しているものと考えられた。

 1996年度からの日中共同調査では、双台河口自然保護区で毎年標識放鳥が行なわれ、2005年度までの10年間に日本の越冬地で146羽(すべて雛で放鳥)の識別個体が確認された(図1)。図1では地点毎に10年間ののべ確認数で示してある。これら146羽は19府県49ヶ所の河口域や干潟で確認された。多くは有明海北部沿岸、八代海北部沿岸、瀬戸内海西部沿岸に集中して見られたが、少数は瀬戸内海中部から大阪湾、伊勢湾・三河湾、東京湾にかけて飛来していた。


<図1> 中国遼寧省の双台河口国家級自然保護区の繁殖地で標識放鳥されたズグロカモメ識別個体の日本国内での発見地点と10年間の延べ確認数

<図1> 中国遼寧省の双台河口国家級自然保護区の繁殖地で標識放鳥されたズグロカモメ識別個体の日本国内での発見地点と10年間の延べ確認数
(1996〜2005年度の毎年6月の放鳥とそれら各年度冬季の確認による)


 日本で本種が100羽以上で安定的に越冬する越冬地は、かつての長崎県諫早市諫早湾干潟(1997年の潮受け堤防締め切り後に干陸化)を除くと、佐賀県鹿島市新籠干潟、佐賀県佐賀市大授搦干潟、熊本県宇城市地先干潟(不知火干潟)、福岡県北九州市曽根干潟の4ヶ所が知られてきた。この4ヶ所で越冬安定期(1月〜2月)の連続する数日間に筆者によって観察された合計個体数は、2000年度冬季から2003年度冬季には1,349羽から1,577羽の範囲で変動し平均1,448羽であった。一方、その19〜16年後の2019年度冬季には2,816羽で94%増の値を示した。対応する時期の幼鳥比率〔=幼鳥数÷(成鳥数+幼鳥数)〕は、前者では平均18.6%(範囲:10.0〜24.2%)、後者では14.1%で、幾らかの減少傾向を示した。

 日本での本種の越冬数が増加した1990年以降には、越冬地の干潟の干拓や埋め立てをめぐる問題がみられた。

 長崎県諫早市諫早湾干潟では、農林水産省が推進する諫早湾干拓事業が1986年に開始され、1997年4月には潮受け堤防による潮止めが実施された。それ以降、堤防内への海水の流入は妨げられ、干潮時の排水門から堤防内の水を外に排出することにより、干潟の干陸化と調整池の淡水化が進行した。その結果、1995年には本種283羽が認められていたものが、1999年には10羽以下になり、有明海の他の干潟に越冬地を変更したものと考えられた。

 福岡県北九州市の曽根干潟では、1993年9月に、海上空港(新北九州空港)の建設に合わせて、北九州市が干潟を埋め立ててニュータウンを建設する「周防灘コースタル・タウン」構想が明るみになった。当時、世界全体で3,000羽と言われた本種の7.1%にあたる213羽が1992年度冬季には渡来していた。そこで北九州市では曽根干潟の利用計画を策定するために、本種については、曽根干潟での調査とともに、中国の繁殖地でも調査を行なうこととして、双台河口自然保護区で日中共同調査を実施した。その結果、同保護区で巣立った幼鳥は曽根干潟を始め日本各地の干潟に渡来越冬していることが明らかになるなどした。1999年3月に北九州市は、「北九州市曽根干潟保全・利用計画」を公表し、曽根干潟(約517ha)の86%は保全ゾーン、14%は土地利用対象ゾーンとすることとした。後者のゾーンは将来の埋め立ての可能性を含むものであったが、そのゾーン内には絶滅危惧種のカブトガニが産卵する砂浜と幼体生息域の干潟が含まれ、その後のカブトガニ産卵成体数が日本最大級にまで増加したこともあって、埋め立ての実施は社会的に困難とみられ、2020年現在、沖合の漁港建設に伴う仮設道路を除き埋め立ては行われていない(空港は2006年3月に開港)。

 他の国内の越冬地においては、近年、ラムサール条約湿地への登録が進められ、「漫湖」(沖縄県那覇市・豊見城市、1999年5月登録)、「荒尾干潟」(熊本県荒尾市、2012年7月登録)、「肥前鹿島干潟」(佐賀県鹿島市新籠干潟、2015年5月登録)、「東よか干潟」(佐賀県佐賀市大授搦干潟、2015年5月登録)などでは保全努力が図られている。

生態

 全長約30cmの小型のカモメ類。頭部は生殖羽では黒いが、非生殖羽ではほぼ白色。中国の繁殖地には3月中旬〜4月上旬に渡来し、4月下旬〜5月上旬には干潟に面した草丈の低い塩生植物が生える場所の地上に巣を作る。巣材はマツナ類(Suaeda sp.)などの植物の茎を使う。5月上旬〜下旬に産卵し、1巣に通常3卵を産む。抱卵期間は21〜23日くらいで、雌雄が交替で抱卵にあたる。ふ化は5月下旬〜6月中旬で、雛は早成性で、ふ化後数時間以内には巣を離れる。ふ化後1ケ月で飛ぶことができるようになる。餌はカニ類、多毛類、魚類や多様な水生小動物である。10月には繁殖地を渡去し越冬地に向かう。

 日本の越冬地の中で、多数個体が越冬する場所(例えば北九州市曽根干潟)では、10月下旬に渡来が始まり、12月中旬にかけて渡来数が増加する。そしてそれ以後2月下旬まではほぼ安定した数を維持するが、3月に入ると渡去が始まり急速に数が減少し、4月上旬にはほとんどが飛び去る。日中は泥質または砂泥質の干潟で潮位の変化に応じて採餌と休息を繰り返し、夜は海上でねぐらをとる。採餌は主に干出した干潟とその周囲の浅い水辺で行なわれる。採餌方法は独特で、単独又は群れで、干出した干潟の低空を水平にふわふわと飛びながら餌を探し、餌を見つけると急降下して干潟に降りる直前に餌を捕え着地する(図2)。また浅い水底の餌をねらったダイビングも行なう。これらの方法では主にカニ類を捕獲するが、ゴカイ類や魚類なども捕る。特に寒さがきびしく風が強い時などには、干出した干潟をゆっくり歩きながら泥の表面の微小な餌を頻繁につまみとる。潮が満ちてくると、冠水していない干潟や砂洲の水辺にほぼ同種だけで群れて休息する。そのような場所が無い場合には、冠水した干潟の水面に浮かんだり、干拓地内の排水調整池の砂州などで休息する。


<図2> ズグロカモメの採餌行動


個体数に影響を及ぼすおそれのある要因

1.中国の繁殖地

 中国の最大繁殖地の双台子河河口域では、これまでに、水田等の農地、農業用巨大貯水池、エビ養殖場、パルプ原料用ヨシ生産場などの造成のために干拓事業が進行し、また油田開発も行われ、本種の繁殖環境である塩性湿地が急速に失われていった。現在では、営巣場所となる潮間帯最上部に位置する塩性湿地はほぼ失われてしまい、一部のエビ養殖場内部で水位管理によって繁殖個体群が維持されている状況である。中国の他地域においても、繁殖地や越冬地における干拓により、本種の生息環境である塩性湿地・干潟が失われてきている。さらには、塩城自然保護区では、外来種のヒガタアシ Spartina alterniflora が干潟で繁茂し、本種の繁殖場所であるマツナ類 Suaeda sp. の植生帯と置き換わりつつあるという。また、繁殖地周辺の干潟で商業用に行われるゴカイ・カニ類等の採取が本種の採餌環境に与える影響が懸念されるとともに、人々の繁殖場所への出入りによる繁殖阻害や卵の採取が記録されてきた。

2.日本の越冬地

 越冬地の日本では、干拓事業による諫早湾干潟の喪失や、曽根干潟での埋め立て構想(実現されなかった)に見られるように、越冬環境である干潟の直接的な干拓・埋め立ての危険が大なり小なり常に存在する。また、越冬地の周囲での埋め立てや構造物設置等に伴って潮流、波浪、海水交換速度などが変化して生息条件の悪化が懸念されることも考えられる。

主な保護課題

1.中国の繁殖コロニーでの水位管理の継続

 現状の繁殖コロニーの主要部分が、エビ養殖場内での水位管理の下に維持されていることから、その継続が必須となっている。また、干拓堤防内に取り残された湿地に繁殖コロニーが存在する場合には、海水導入による水位管理を実施して、塩性湿地を維持して繁殖コロニーを継続させる努力が望まれる。

2. 中国の繁殖地の干拓地沖に形成される塩性湿地の保全

 現在繁殖地となっている干拓地の海側には、今後、更なる干拓が行われなければ、河川上流から運ばれて来る土砂の堆積により、塩性湿地が復活するものと期待される。特に、本種の営巣環境は、それら塩性湿地内の潮間帯最上部にあたることに留意して、保全が図られる必要がある。

3. 越冬地での干拓・埋め立ての回避及び周囲の埋め立て・構造物設置等による海況変化の影響の回避または低減

 日本の越冬地では、干潟の干拓・埋め立ては避けられるべきであろう。また、周囲の沿岸部での埋め立てや構造物設置等に伴う潮流、波浪、海水交換速度などの変化による越冬地の生息条件の悪化の回避や低減が望まれる。

執筆者

武石全慈(北九州市立自然史・歴史博物館名誉館員)

写真提供者

岡部海都(一般財団法人 九州環境管理協会 環境部 主席研究員)

参考文献・資料

BirdLife International. 2018. Saundersilarus saundersi. The IUCN Red List of Threatened Species 2018. Brazil, M.A. 1993. 中国にズグロカモメをもとめて.アニマ 21(4):121-126.
環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編). 2014. レッドデータブック2014 −日本の絶滅のおそれのある野生生物− 2 鳥類. 250pp. ぎょうせい.
佐藤正典 編. 2000. 有明海の生きものたち 干潟・河口域の生物多様性. 396pp. 海游舎.
水産庁 編. 1998. 日本の希少な野生水生生物に関するデータブック. 437pp. 日本水産資源保護協会.