コアジサシ
種名
和名 | コアジサシ |
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学名 | Sterna albifrons |
英名 | Little Tern |
絶滅危険度
日本(環境省):絶滅危惧II類(VU) 世界(IUCN):低懸念(LC) |
※日本鳥類目録第7版ではSterna属とされているが、近年の分類ではSterunula属と独立する考え方が一般的である。
法的保護
かつては二国間渡り鳥等保護条約においてアメリカおよびオーストラリアからの通報種として挙げられていたため、種の保存法における国際希少野生動植物種である「Sterna albifrons」として保護されていた。その後、2016年の同法の改定の際にオーストラリアからの通報が解除されたことを受けて、アメリカからの通報種である「Sterna albifrons browni(アメリカコアジサシの旧学名)」のみが国際希少野生動植物種に記載されることになったため、現状で日本のコアジサシ(Sterna albifrons sinensis)は種の保存法において保護されておらず、一般的な絶滅危惧種と同様の扱いとなっている。
個体数減少の原因
自然の営巣地の減少に端を発する、営巣地不足が大きな要因と考えられている。コアジサシは洪水・高潮や捕食者の襲撃を受けた際に営巣地を変える習性があるが、営巣箇所の減少によりこのような移動ができなくなっており、繁殖成功率の低い場所で営巣が続いてしまう現状がある。餌となる魚類の変動がコアジサシの個体数に影響がある可能性も指摘されているが、詳細は不明である。
保護活動の歴史
1990年代ころから各地でコアジサシの減少が指摘されるようになってきており、各地でのコアジサシの保全活動が続けられている。特に東京大田区昭和島にある森ヶ崎水再生センター屋上では、コアジサシの人工営巣地を整備し保護する団体、「NPO法人リトルターン・プロジェクト」により大規模な保護活動がおこなわれている。
環境省により「コアジサシ繁殖地の保全・配慮指針」(2014)が出されており、保全に関する情報がよくまとめられている。コアジサシの保全活動は大きく分けて、既存の営巣地の保護、新規営巣地の創出、営巣地への誘致およびコロニー形成の防止、営巣環境の改善に分けられる。
営巣地の保護としては確認されたコロニーを防護柵で囲むなどして、人が立ち入らないようにする対策が取られている。このようにすることで人による営巣の妨害を防ぐことができる。一方で、野生生物に対する効果はあまりないが、中には大規模に柵を張り巡らせることで地上性の捕食者の立ち入りを制限するケースもある。
新規営巣地を創出する場合もあり、河原や海辺に新たに土地を造成し、コアジサシに繁殖の場を提供している。この対策によりコアジサシが飛来する可能性を高めるために誘致対策と併せて行われることが多い。一方で、土地の造成の方法次第では数年で草原化してしまう事例もあり、基質の選択が重要となる。
営巣地点として好ましい場所や創出した営巣地にコアジサシを誘致することがある。多くの場合、デコイと音声を合わせて誘因をおこない、実際にコアジサシの初期飛来数に影響を与えることが示唆されているが、繁殖まで結びつくかは不明な点も多い。営巣地として白い基質を好むことが知られており、デコイと併せて彩色や白い基質を撒くことで飛来の可能性を高めることができる。一方で、暗色の地面を嫌う性質などを利用して、空港などの飛来を防止したい地域でのコロニー形成阻止をおこなう事例もある。この際に防鳥テープや吹き流しなども併せて飛来を防ぐことがある。誘因と忌避対策を合わせて、工事現場などでの繁殖をコントロールする試みが各地で行われている。
営巣環境の改善として、人工シェルターを用いて捕食者からの発見を阻害したり、水場を設置して熱による卵や雛の死亡率を減らす試みも実施されている。
繁殖分布と個体数の現状と動向
過去には青森県まで分布が確認されていたが、現在では山形県などが北限とされる。全国各地で減少が報告され、元々生息していない北海道を除く、46の都府県のレッドリストに記載されており、その大半が絶滅危惧I類相当の扱いとなっている。特に内陸部では減少が著しく、現在、大きなコロニーが確認されているのは、東京湾、九十九里浜から鹿島灘にかけて、大阪湾、沖縄県などの沿岸部が多い。減少傾向にあると推察されているが、頻繁に営巣場所を変える習性をもつことから、把握されていないコロニーが多数存在すると考えられており、正確な個体数の変動を把握することが困難であることが、保全活動を難しくしている。
生態
小型のアジサシ類。全長22~28cm、体重は47~63g。日本では本州以南の水辺に幅広く生息している。砂浜や河原などの裸地に簡単なくぼみをつくっただけの巣をつくり、一度に2~3個の卵を産むのが一般的である。およそ3週間の抱卵期間ののちに孵化し、孵化後2~3日程度で巣を離れ歩き回るようになる。孵化後は親から給餌されながら、3週間程度で飛翔できる程度まで成長するが、巣立ち後も親からの給餌は続く。
繁殖地は河原や砂浜などの草の生えない裸地が中心であり、抱卵しているコアジサシの目線よりも草丈が高くなるようなところでは繁殖しない。一方で、ハマヒルガオなどの草丈の低い植物の間であれば、卵を産むことがある。コロニー繁殖し、一か所に数十から数百個体が集まる。過去には数千個体が集まるコロニーが確認されることもあったが、近年では稀になっている。裸地であれば、比較的選好性は少なく、礫のサイズなどが営巣地選択に使われることはない。砂浜から玉砂利河原まで幅広いサイズの基質を利用し、時にはアスファルトの上などにも産卵する。
魚食性で5~10cmほどの小魚をよく捕食する。魚以外にもエビ類を捕食する事例があるが、数は多くない。東京湾周辺での主な餌はカタクチイワシである。子育ての際には雌雄ともに給餌を行い、雛に嘴から直接魚を渡す。雄はつがいとなる際に雌に魚を与える求愛給餌をすることが知られている。魚食性であるため、コロニーは大きな水辺(海、河川、湖沼など)のそばにつくられることが多く、2km以上離れた場所にコロニーができることは稀である。
繁殖後は8月ころに干潟などに集結し、集団で生活する。その後、8月末から9月にかけて渡りを開始する。渡りでは南西諸島やフィリピンを経由しながら南下し、マレーシア、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドなどで越冬する。第一回夏羽の時点では繁殖しないと考えられており、2年目以降に繁殖をするのが一般的であるが、第一回夏羽の個体も日本まで渡りをすることがあり、繁殖地の周辺で確認されることがある。
個体数に影響を及ぼすおそれのある要因
- 河川および海岸線の造成工事。本来の生息地である河原や砂浜などの裸地の消失により営巣地が減少し、人工造成地への営巣が増えるが、整備されていない造成地では草原化により営巣ができなくなる事例が多い。また、河川の護岸工事は氾濫を減らすことがあり、天然の砂利河原などが減少していることも営巣地を減らす要因となっている。
- 天敵の増加。都市部を中心に天敵であるカラス類やチョウゲンボウが増加傾向にあり、コロニーを全滅させる事例が知られている。また、ノネコやネズミ類などが卵や雛を襲う例も知られており、人間活動に由来する天敵の増加が大きな問題となっている。
- 人による生息地への侵入。特に砂浜での営巣において、コアジサシの生態を知らない市民が営巣地に徒歩や車で侵入し、卵や雛を踏み潰す事例が知られている。
主な保護課題
- 営巣地の確保。自然であるか人工造成地であるかを問わず、人や捕食者が入ってこない場所を確保する必要がある。また、海岸線や裸地を利用することが多いため、近年では営巣地や候補地に風力発電や太陽光発電などが建設さられることがあり、これらとの共存も課題となる。
- 工事現場での保護。港湾地域の工事中に裸地が出現するとコアジサシが飛来し工事の進行に影響を与える事例がある。コアジサシの保全を無視した工事が実施されてしまう事例もあり、状況の改善が必要となっている。
- 捕食者対策。カラス類の捕食被害にあう事例が多いが、有効な捕食者対策が確立されておらず、この開発は急務となる。
- 普及啓発活動。コアジサシの生態を知らない市民による繁殖地への立ち入りが頻発しているため、普及啓発活動をおこなう必要がある。
- 個体数のモニタリング。個体数の全容と減少傾向などが明らかとなっていないため、各営巣地間の情報を共有しながら日本全体での個体数推定をおこなっていく必要がある。
執筆者
北村 亘(NPO法人 リトルターン・プロジェクト)
参考文献・資料
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