日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧II類(VU)

写真提供:富田直樹(山階鳥類研究所)

種名

和名 ヒメクロウミツバメ
学名 Oceanodroma monorhis
英名 Swhinhoe‘s Storm-petrel

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧II類(VU)
世界(IUCN):NT

法的保護

 種としての法的保護はないが、繁殖地が、国指定(三貫島、沓島、小屋島)あるいは東京都指定(八丈小島小池根)の鳥獣保護区である他、国立公園(三陸復興国立公園:三貫島、富士箱根伊豆国立公園:恩馳島、八丈小島小池根、大山隠岐国立公園:星神島)や国定公園(若狭湾国定公園:沓島)にもなっている。また、三貫島と星神島(ただしオオミズナギドリ繁殖地として)は国指定の、沓島は舞鶴市指定の天然記念物である。

個体数変動の原因 1)

 2011年の東北地方太平洋沖地震に伴う津波と崖の崩落およびその後の浸食による繁殖地の損壊(三貫島)、繁殖地に侵入したドブネズミによる捕食(小屋島)

分布 1)

 西太平洋からインド洋北部に分布し、日本、ロシア南東部、中国東部、台湾の島で繁殖する。国内では、三貫島(岩手県)、恩馳島、八丈小島小池根(東京都伊豆諸島)、沓島(京都府)、星神島(島根県隠岐諸島)、小屋島(福岡県)で繁殖する。

個体数の動向、保護活動の歴史 1)2)3)4)5)

 環境省モニタリングサイト1000小島嶼(海鳥)調査では,2004年以降、定期的に各繁殖地で巣穴密度や巣穴数のモニタリングを行っている。国内最大の繁殖地である沓島では、固定調査区の巣穴密度と営巣面積から繁殖地全体の巣穴数を算出し、年により変動するがこれまでに2,360~6,136巣穴が記録されている。Sato et al. (2010) による2008年の調査では6,312巣穴と推定されている。同様の方法で恩馳島では1,624巣穴、八丈小島小池根では176~294巣穴が記録されている。

 三貫島西端のウミツバメ類繁殖地は、2011年の東北地方太平洋沖地震に伴う津波と崖の崩落およびその後の浸食によりウミツバメ類の営巣可能な巣穴数が大幅に減少し、現在も不安定な状態にある。島西部の頂上部付近の岩場でも繁殖の可能性が確認されているが、繁殖数は十分に把握されておらず、帰島する個体の確認にとどまっている。

 小屋島では、1987年にドブネズミの侵入が確認され、同年、ネズミに捕食されたと考えられるヒメクロウミツバメのへい死体が大量に発見された。その後、福岡県が殺鼠剤を散布したことによりドブネズミは確認されなくなっていたものの、2009年に再びドブネズミの侵入が確認され、同時にヒメクロウミツバメのへい死体も発見された。2011年2月に環境省九州地方環境事務所が殺鼠剤を散布し、ドブネズミを駆除した。しかし、その後2020年8月に巣穴2ヶ所で雛が1羽ずつ確認されるまで、成鳥の飛来は確認されるものの、卵や雛など直接的な繁殖の証拠はまったく確認されなかった。

 星神島は、2005年に約60年ぶりに本種の繁殖が再確認されたが、繁殖地は岩に覆われた急斜面の狭いスゲ群落であるため生息数は多くなく限定的である。

生態 6)7)8)

 体色は雌雄同色で、全身黒褐色、尾は燕尾型をしている。体重は平均44.8g、翼長は141~164.5mm。三貫島では、5月下旬頃に渡来し、10月上旬頃に渡去する。巣は地面に直径約10cm、深さ20~100cmの横穴を掘り、最深部にやや広い産座部屋を作り、白色の卵を一卵産む。抱卵は雌雄個体で行い、抱卵期間は約41日とされている。繁殖期の小屋島では、成鳥は午後7時50分に島に戻り始め、抱卵交代や雛への給餌を行い、午前2時頃から離島が始まり、午前4時には沖合に飛去する。採餌は海水面で行い、主に小型の魚類やイカ類を餌とする。鳥類標識調査により、これまでの最長生存期間は18年間であることが確認されている。

個体数に影響を及ぼすおそれのある要因 1)2)

・ドブネズミ

 繁殖地のほとんどは、釣人が頻繁に上陸するため、釣船の離着岸時にドブネズミが侵入するおそれがある。また、繁殖地は、本土や島からドブネズミが容易に泳いで渡れる距離にある。ドブネズミなど大型ネズミ類が侵入した場合、ほとんどの繁殖地は面積が小さく、個体群も小規模で脆弱であるため、小屋島のように壊滅的な被害を引き起こすことが考えられる。

・ハシブトガラス

 星神島では、海鳥の捕食者となるハシブトガラスが集団で確認されている。同島では、これまでに釣人が残置した撒き餌やゴミが確認されており、これらに誘引されたと考えられる。

主な保護課題 1)2)

 本種は、巣穴営巣性で、各繁殖個体群は規模が小さく、繁殖地の面積も狭いため、ドブネズミなど大型ネズミ類の侵入に対して脆弱である。そのため、これまでの定期的なモニタリングに加えて、大型ネズミ類の侵入防止と監視および侵入を確認した際の早急な対応策を検討する必要がある。また、釣人及び渡船業者に対する本繁殖地の情報周知と普及啓発も重要である。

執筆者

富田直樹(山階鳥類研究所)

参考文献・資料

1) 環境省自然環境局生物多様性センター (2021) モニタリングサイト1000小島嶼(海鳥)調査 2004-2018年度とりまとめ報告書.
2) 佐藤文男 (2022) 日本の海鳥の現状と保全の課題-環境省モニタリングサイト1000海鳥調査から-.山階鳥学誌 54: 3-53.
3) Sato F, Karino K, Oshiro A, Sugawa H. & Hirai M (2010) Breeding of Swinhoe’s Storm-petrel Oceanodroma monorhisinthe Kutsujima Islands, Kyoto, Japan. Marine Ornithology 38: 133-136.
4) 武石全慈 (1987) 福岡県小屋島におけるカンムリウミスズメの大量斃死について. 北九州市自然史博物館研究報告 7: 121-131.
5) 環境省九州地方環境事務所 (2009) 平成21年度国指定沖ノ島鳥獣保護区ドブネズミ捕獲調査等業務報告書.
6) 清棲幸保 (1978) 増補改訂版 日本鳥類大図鑑Ⅲ. 講談社, 東京.
7) 水産庁 (1996) 日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅲ). 日本水産資源保護協会, 東京.
8) 吉安京子・森本元・千田万里子・仲村昇 (2020) 鳥類標識調査より得られた種別の生存期間一卵 (1961-2017年における上位2記録について). 山階鳥学誌 52: 21-48.