日本の絶滅危惧海鳥類

絶滅危惧II類(VU)

写真:日本野鳥の会

種名

和名 カンムリウミスズメ
学名 Synthliboramphus wumizusume
英名 Japanese Murrelet

絶滅危険度

日本(環境省):絶滅危惧II類(VU)
世界(IUCN):危急種(VU)

法的保護


 「文化財保護法」によって、1975年に天然記念物に指定された。繁殖地のうち、鳥島、祇苗島、大野原島、七ッ島、紀伊長島、枇榔島、冠島・沓島、沖ノ島、男女群島が国指定鳥獣保護区に指定されている。


個体数減少の原因


 宮崎県門川町の枇榔島では戦前戦後に卵や成鳥の採取が行われ、その後も1980年代まで卵の採取や海上での狩猟が行われていた。軽微であるが、漁業による混獲被害もあった。卵の採取は他の繁殖地でもかつては行われていた(中村 2016)。混獲については、繁殖地周辺や非繁殖期の東北から北海道近海で刺し網漁にかかって成鳥が死亡していることが報告されている(Piatt & Gould 1994)。

 近年は、繁殖地である無人島で磯釣りが盛んになり、余った撒き餌の廃棄によりカラス類が誘致され、卵やヒナのみならず成鳥も捕食されるようになっている。また、人の移動に伴いネズミ類が入り込んだ繁殖地では、卵などの捕食で壊滅的な被害が生じるなど、外来の捕食者の影響が報告されている。また、元々生息していなかったシマヘビが移入した島では、ヒナの捕食が確認されている。

 原因は明らかではないが繁殖地の消滅も起きており、伊豆諸島では2009年以降も12カ所の島で繁殖が確認されているが、複数の島で近年は繁殖が確認されなくなっている。


保護活動の歴史


 伊豆諸島では1970~80年代に繁殖調査が行われた後、いくつかの繁殖地を除き調査は行われなかったが、2009年以降は、(公財)日本野鳥の会が繁殖状況調査及び各繁殖地の洋上個体数調査を断続的に行っている。2016年には静岡県下田市神子元島に設置した人工の巣でカンムリウミスズメが繁殖し、カンムリウミスズメの営巣場所を人工的に創出する簡便な方法の足掛かりを得ており、同島で継続して人工的な巣の確立への取り組みが行われている。

 枇榔島では1990年代から継続して標識調査が行われ、個体数調査やカラス類による捕食状況調査も実施されている。これらの他の繁殖地や非繁殖期の分布海域でも、断続的に個体数調査やジオロケータを用いた分布調査が実施されており、これらの調査の結果を基に、繁殖地の保護区化が行われた。

 ネズミ類が侵入した福岡県小屋島では、繁殖個体数の回復のため1980~1990年代にかけてネズミの根絶を試みたが、その後ネズミ類が再確認され、壊滅的な被害を受けており個体数の回復は見られていない。


繁殖分布と個体数の現状


 日本近海及び韓国南部の離礁や離島でのみ繁殖する。繁殖地の北限は石川県七ッ島で、南限は伊豆諸島鳥島であり狭い範囲に限られている。最大の繁殖地は宮崎県枇榔島で、ついで東京都祇苗島、大野原島などがある伊豆諸島の海域があげられる。この他、三重県耳穴島、京都府沓島、高知県幸島、福岡県沖ノ島や韓国南部でも繁殖が確認され、2000年以降、日本と韓国南部の離島24カ所で繁殖が記録されている。総個体数は5,000羽から10,000羽と推定されている。


生態


 全長、平均23.8㎝、翼開長、平均43.1㎝、体重、139~214g(平均164g)の小型の海鳥で、雌雄の外見は色、大きさとも違いはほとんどない。雌雄は長く連れ添うと言われており、営巣地への回帰性が高く、繰り返し同じ営巣地を利用する。寿命は分かっていないが、繁殖地で行われた標識調査の結果から、成鳥になってから19年生きている個体が確認されている。

 岩の割れ目や草の根元くぼみに営巣し、巣材はあまり使用せずに地面に産卵をする。1シーズンに最大2卵を産卵する。卵は体に対して非常に大きく、卵重は体重の約22%にもなる。抱卵30日ほどで孵化、孵化後は1~2日程度で巣立つ。最初の給餌は海に出てから行われる。巣立ち後は、徐々に繁殖地を離れ移動しながら成長する。

 ジオロケータを利用した調査の結果、夏の間に日本の太平洋側を北上し、北海道東部から西部へと移動。9~12月頃には南下を始め、沿海州沿岸あるいは北上時と類似した太平洋側のルートを南下して1~2月頃には繁殖地周辺に戻ることが分かった(図1)。ジオロケータとは照度と時間を記録する機械で、記録された照度から日の出日の入りと南中時刻を推定し、それらの時刻と一致する地点にジオロケータが存在したと判断する方法である。



図1.神子元島の繁殖個体に装着したジオロケータから推定された位置


主な保護課題


  1. 各繁殖地やその海域を利用する個体数の調査方法が島ごとに異なるため、個体数を検証するための手法の確立が必要である。
  2. 過去に繁殖記録がある島において、繁殖確認が困難な場所があり、情報の更新が難しい。
  3. 営巣場所が消失、減少した場所において、営巣場所を創出する方法の確立が必要である。
  4. 漁業による混獲を防止し、海洋における保護を推進する。
  5. ネズミ類が侵入した繁殖地が複数あり、その駆除が必要である。
  6. ゴミに起因した繁殖地へのカラス類の飛来を防ぐため、レジャー関係者や市民への啓蒙普及やルール作りが必要である。

執筆者


手嶋 洋子(公益財団法人日本野鳥の会)

参考文献・資料


Otuki.K., H.R.Carter, Y.Yamamoto and C.park(2017) Summary of breeding status for the Japanese Crested Murrelet.Status and Monitoring of Rare and Threatened Japanese Crested Murrelet,15-32.海鳥保全グループ.福島県.
中村豊 (2016) 宮崎県枇榔島で得られたカンムリウミスズメSynthliboramphuswumizusumeの知見について.Strix,32:17-41.
Piatt,J.F. and P.J.Gould (1994) Postbreeding dispersal and drift-net mortality of endangered Japanese Murrelets. Auk, 111:953-961.