ケイマフリ
種名
和名 | ケイマフリ |
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学名 | Cepphus carbo |
英名 | Spectacled Guillemot |
絶滅危険度
日本(環境省):絶滅危惧II類(VU) |
法的保護
「文化財保護法」によって1938年、海鳥集団繁殖地として天売島が天然記念物に指定された。
個体数減少の原因
個体数の増減は、繁殖地周辺の漁業活動や餌生物の状況に依存していると思われるが詳細は不明。
保護活動の歴史
有人島で定期船が通う天売島における記録が最も古く、1963年の調査では推定3000羽であり、1972年が384羽、1977年が354羽、以降は200羽以下へと減少して2004年に過去最低の171羽となった。カウント方法をはじめとする調査方法の詳細が不明の記録があり単純に数の比較ができないが、少なくともこの期間は減少傾向が続いたものと考えられる。
こうした断片的な数の把握以外は、繁殖地が急崖でアクセスが難しいなどの理由から、繁殖生態調査や保護活動は限定的であった。2019年から行われている繁殖生態の定点調査により、詳細な繁殖生態が明らかになりつつある。
繁殖分布と個体数の現状と動向
国内における繁殖地は、北海道では天売島、知床半島、ハボマイモシリ島、ユルリ島、モユルリ島があり、青森県では尻屋崎弁天島が知られている。
世界的には、繁殖地はオホーツ海を囲む海岸線や離島の断崖、朝鮮半島の日本海側の一部とされるが詳細な情報がほとんどない。このようにケイマフリの世界における分布はとても狭く、観察できる場所が限られる希少な海鳥である。
繁殖期以外は陸に上がらずに海上生活をおくる。海岸に比較的近い海で過ごすと考えられている。
環境省による、2006年以降の天売島における陸からのモニタリングによると、2017年の682羽を最大として増加傾向にあることが確認されている。
生態
体長37cmでハトほどの海鳥。
国内最大の繁殖地である天売島では、島沿岸の海上でケイマフリが一気に目立つようになるのは3月である。冬を過ごしていた周辺の海から、繁殖地である天売島に集まってくるためだ。この頃から2羽が追いかけ合うように飛翔するなど、つがい形成に関係する行動が見られるようになる。
天売島の北西向き海岸は、100メートルを越す断崖絶壁が約4キロにわたって続く。垂直に近い岩場の小さな裂け目の奥が、ケイマフリが産卵のためによく利用する場所だ。4月、そうした崖下の海に姿が目立つようになり、午前中の早い時間を中心に、つがいで鳴き合う求愛行動や交尾が活発に行われる。こうした行動は5月まで続く。
産卵は5月を中心に行われ、普通2卵を産む。抱卵日数は29日前後である。6月にはヒナが孵化し、40日前後の育雛期を経て7月に巣立ちがはじまる。2卵を産んだ場合、孵化した2羽のヒナは同じ日の夜間に巣立つことがある一方、成長に差がついて1羽目の巣立ちから10日も遅れて2羽目が巣立ったという事例が報告されている。また、2羽育っていたヒナが、巣立ちまでに1羽に減少する場合もある。ハシブトガラスがケイマフリの巣穴をのぞき込むなどの行動が確認されており、ドブネズミを含むこれらの天敵の影響である可能性が考えられる。ヒナへの給餌は、両方の親鳥が小魚などを一匹ずつくわえて運ぶことで行われる。天売島ではイカナゴの給餌が圧倒的に多く、カジカの仲間、ギンポの仲間、カレイの仲間、エビなどの甲殻類を運ぶ様子が観察されている。8月初旬には、繁殖地沿岸から見られなくなる。
冬羽は、繁殖期に見る全身が黒づくめの姿とは異なる。完全な冬羽では喉から腹部までの下面が白く、換羽中の個体は下面が白黒のまだら模様のこともある。ケイマフリ独特の目の周りが白い特徴は残るので、わかりやすい識別ポイントとなる。足の赤は、冬羽個体では繁殖期ほどの鮮やかさがない。
個体数に影響を及ぼすおそれのある要因
- 繁殖地沿岸で行われる刺網漁などによる漁業による混獲。
- ハシブトガラス、ドブネズミなどの天敵。
- イカナゴなど餌資源の変化。
- その他、プラスチック類による海洋汚染の拡大や気候変動による海洋環境の変質、海洋生態系の変化。
主な保護課題
- 天売島および他の国内繁殖地のモニタリング調査の継続。
- ロシアをはじめとする海外における繁殖地の情報収集。
- 繁殖生態の解明および繁殖阻害要因の測定。
- 人工増殖による保護。
- その他。
執筆者
寺沢孝毅(守りたい生命プロジェクト有限責任事業組合)
参考文献・資料
- 寺沢孝毅. 2017.『ケイマフリ関連論文・報告書』160pp. 守りたい生命プロジェクト有限責任事業組合.
- 寺沢孝毅. 2016.『ケイマフリ 天売島の紅い妖精』96pp. 文一総合出版.