ベニアジサシ
種名
和名 | ベニアジサシ |
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学名 | Sterna dougallii |
英名 | Roseate Tern |
絶滅危険度
日本(環境省):絶滅危惧II類(VU) 世界(IUCN):低懸念(LC) |
法的保護
鳥獣保護管理法の希少鳥獣、日豪渡り鳥保護協定の対象種である。
繁殖分布と個体数の現状と動向
広汎種で、ヨーロッパ北西部、アフリカ東部、インド洋、東南アジア、オーストラリア、中国南岸、日本の南西部、北アメリカの東海岸、カリブ海の島で繁殖する。日本では、亜種 Sterna dougallii bangsi が奄美諸島、沖縄島と周辺の小島、八重山諸島、福岡県大牟田市沖の三池島(人工島)で繁殖し、まれに大阪での繁殖例もある。
世界全体の個体数は200,000羽~ 220,000羽と推定されている。このうちヨーロッパの個体群は、成鳥が4,500~5,800羽で、増加傾向にあると推定されている。世界的な個体群の動向は不明で、減少している個体群もあるが、増加、もしくは一定である。国内での繁殖数は、環境省自然環境局生物多様性センター(2015)によると、第1期の2005年に成鳥数3,456羽、巣数1,309巣、第2期の2009年に成鳥5,797羽、2,339巣、2012年に成鳥数3,968羽、巣数1,289巣となり、第1期から第2期で成鳥数は14.8%増加、巣数は1.5%減少している。
生態
全長約35cm、翼開長約78cmの中型で、雌雄同色のアジサシ類。頭部は黒色、喉から体下面は白色、背面は灰色で、繁殖期には、嘴と足が深紅色、喉から腹にかけて淡い桃色になる。尾羽は先が二つに分かれ後ろに伸びており、休息時には、尾羽の先はたたんだ翼の先よりも長い。
採餌の間は頻繁にホバリングし、8~12mの高さから飛び込み餌をとる。主な餌はトウゴロウイワシ類、キビナゴ類など表層に群れる小魚のほか、トビウオ類、ダツ・サヨリ類の幼魚、イカ類を捕食する。
一夫一妻。アジサシ類の中でも特に集団性が強く、繁殖の同調性も強い。6~8月にかけて、沿岸域や内湾の小島の砂浜、岩礁、サンゴ礫の浜で繁殖し、数十から数百巣のコロニーを作る。
西表島では、一腹卵数は1.36±0.492(N=212)、抱卵日数は平均22.7±1.36日(21-26, N=60)で(水谷・河野 2009)、その後、23~30日の育雛期間を経て巣立つ。営巣環境は、潮間帯の近くから海抜10m以内で、主にグンバイヒルガオ、ハマゴウ等の海浜性植物の近くやガジュマルの根元で、岩のくぼ地に小枝や枯葉を集めて営巣する。南西諸島ではコロニーが移り変わり、繁殖成功率は低く1割以下である。
標識調査により(環境省自然環境局生物多様性センター 2021)、日本での繁殖個体群の繁殖開始年齢は3歳以上、最長23年11ヶ月で、本種は、長寿命かつ繁殖開始年齢が高いという特徴をもつこと、また、主要な越冬地はオーストラリアクイーンズランド州のスウェイン環礁であることが明らかになっている。
個体数減少の要因
本種は、集団性が強く、繁殖の同調性も強いことから、繁殖地への人為攪乱の影響が大きく、人の上陸や接近により、営巣放棄や、集団で他の地域に移動する。カラス類等による捕食も個体群に影響を与える。テグスや漁網に絡まり死亡した例もある。海外では、卵の採取や越冬地での食料としての捕獲が減少要因となっている。
保護活動の歴史
国内では、1993年に三池島の坑道で保護され、1994年に三池島で繁殖していることが確認された。日本野鳥の会筑豊支部と熊本県支部による調査と保護活動が継続的に進められている。
国内最大の繁殖地であるナガンヌ島(沖縄島渡嘉敷村)では、営巣放棄を引き起こすマリンレジャー客や釣り人の営巣地への接近、立ち入りを減らすために、2002年、環境省、沖縄県、渡嘉敷村、山階鳥類研究所等が「ベニアジサシ保護対策協議会」を開き、観光区、緩衝区、保護区のゾーニングや看板により立ち入りへの注意喚起を行なった(棚原 2003)。また、環境省やんばる野生物保護センターでは、2016年に「国指定屋我地鳥獣保護区」にベニアジサシのデコイを設置し誘致を行なったほか、看板の設置やロープを張る等の対策を進めている。また、同年にバードライフ・インターナショナル東京と(公財)日本野鳥の会では、海鳥を指標として生物多様性や環境保全において重要な海域を選定し、保護指定を進めるためにマリーンIBA(Marine Important Bird and Biodiversity Areas)として「有明海」、「沖縄島沿岸離島」、「八重山諸島」の3か所を指定している。
この他に、日本での繁殖個体群の主要な越冬地であるスウェイン環礁はグレートバリアリーフ海洋公園に含められ、釣り、サンゴの採取禁止、商業船の航行についてもルートが決められ規制されている。
主な保護課題
- 人為攪乱(マリンレジャー客や釣り人、写真撮影)による営巣放棄、営巣地の移動。
- 分散して繁殖し、また、年により繁殖地を変える習性があり、保護区の設定が困難。複数の繁殖地の総合的な管理が必要。
- カラス類による卵、雛の捕食、アリ類による雛の襲撃、捕食等があり対策が必要。
- 潮間帯に近い低地で繁殖するため、気候変動による海水面上昇、台風等による卵や雛の流出、雛の体が冷えて死亡すること等が懸念される。
- 人工島の三池島では施設の老朽化が進んでおり、補修や維持管理が必要である。
- 国内の繁殖個体群の主要越冬地は海洋公園法により保護管理されているが、環境の維持が大切である。
- 海外で行なわれている卵の採取、食料としての捕獲は個体群への影響が懸念される。
執筆者
山本裕(公益財団法人 日本野鳥の会)
参考文献・資料
- バードライフ・インターナショナル東京. 2016. マリーンIBA白書 海鳥から見た日本の重要海域. バードライフ・インターナショナル東京. 東京.
- BirdLife International (2022) Species factsheet: Sterna dougallii. Downloaded from
- http://www.birdlife.org on 5/12/2022.
- Enticott, J. & Tipling, J. 1997. Seabirds of the World: the complete reference. New Holland. Singapore.
- 環境省編. 2014. レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生生物 2 鳥類-. ぎょうせい. 東京.
- 環境省自然環境局生物多様性センター. 2015. 重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリングサイト1000)海鳥調査第2期とりまとめ報告書. 環境省自然環境局生物多様性センター. 山梨.
- 環境省自然環境局生物多様性センター. 2021. 令和2年度環境省鳥類標識調査委託業務 2019年鳥類標識調査報告書. 環境省自然環境局生物多様性センター. 山梨.
- 水谷晃・河野裕美. 2009. エリグロアジサシとベニアジサシのモニタリング手法の提案
- -コロニー外からの観察による営巣数の計数と雛の齢査定に基づく産卵時期の推定-. 山階鳥類学雑誌. Vol.40(2)(No.120). 125-138.
- 棚原哲雄. 2003. 沖縄島におけるアジサシ類の繁殖状況調査. 第18回(平成15年度)Takaraハーモニストファンド活動助成報告. 77-89.